夏と夏の间に 1
「あー、畜生ッ!! まったくツイてねえな」
普段だったら、ここで壁にでも拳の一発二発入れて忧さを晴らすのだが、今回ばかりはそうも行かず、ラルフはぎりりと歯轧りをした。なにしろ、外の吹雪の势いで、今にも吹き飞びそうな山小屋だ。その上、今はその山小屋だけが頼りなのだから、怒りに任せて鉄拳を食らわせて、崩壊させてしまうわけには行かない。
そんなことをしたら、2人は猛吹雪の雪山に放り出される羽目になってしまう。
大体にして、あのくじ引きからツイてねえ、とラルフは思う。
2方向から进める作戦のために、チームを分けたのはいい。まずかったのは、そのクジを引き负けたことだ。よりにもよって、季节外れの山登りの方が当たっちまうとは。しかも山登りコースには、作戦の都合でもれなくレオナが付いてくる。
それでも何とか任务自体は完了。これも问题はない。
最大の问题は、下山途中に、突然の猛吹雪に遭ってしまったことだ。数メートル先も见えない猛吹雪の中を下山するのはあまりにもリスキーな赌けで、その中でやっと见つけた、放弃されたと思われる朽ちかけた山小屋に逃げ込むより他なかった。
麓の本队に连络を取ろうにも、携帯电话はおろか、通信机すら役に立たない。吹雪のせいで、ノイズがひどいのだろう。それにもし连络が取れたとしても、この吹雪の中でどうやって、救助の手を差し伸べるというのか。
「この季节なら……过去のデータを考えれば、それほど长い吹雪にはならないと思う。最悪でも数日耐えれば、无事に下山できるはずよ」
「……っとにお前は、小憎らしいほど冷静だな、レオナ」
「そう?」
「その数日を耐えるのがどれだけ大変か、わかってねえ訳じゃないだろ?」
今回の作戦は、何よりもスピードが胜负だった。そのため、身軽さを重视して装备は最低限。食料も燃料も、ほとんどゼロに近い。そんな无理な作戦だからこそ彼らが駆り出されたのだが、食料はともかく(戦场でまともに食えないのは惯れっこだ)、暖を取るための燃料が乏しいのは、この状况では致命的だ。
せめてこの山小屋に薪でもあればよかったのだが、もう放弃されてかなりの年月が経っているらしく、使えそうなものは见当たらない。かといって、外に探しに行く訳にも行かない。
「せめてもうちょいマシなとこならいざ知らず、こんな隙间风だらけのボロ小屋で火も焚けずにいたら、一晩もたずに冻え死んじまうぞ? それでもそんな落ち着いたクチを利くかよ、この娘っこは!?」
唯一と言っても过言ではない防寒具である、军用マントにくるまったまま、レオナはラルフが言い散らすのをじっと闻いていた。その表情は、ラルフの言うとおり、まるで冷静さを欠いていないように见える。それがまた気に入らなくて、ラルフはむっつりと黙り込んだ。
天候が悪化したのは勿论レオナのせいではないし、彼女のせいで作戦の予定がずれ込んで、下山のタイミングを逃したわけでもない。
长い佣兵生活の中では、もっと酷い状况もずいぶん体験したはずなのに、なぜか异様な苛立ちと焦燥感に袭われる。
それは、自然という抗いようのないものの胁威に晒されていることへの、本能的な恐怖かだったのかもしれない。もしかするともっと単纯に、いけ好かない饿鬼と2人きり、という状况のせいかもしれなかったが。
「クラークはもう、麓のホテルでのんびりやってるんだろうなあ」
挙句の果てには、愚痴まで出た。クラークの引き受けた任务も、决して楽なものではなかったが、それでもこっちよりはマシだろう、と思う。
「……暖をとる方法なら、案がない訳ではないけれど」
ややあって、しばらく考え込んでいた风のレオナが言った。
「案? まさか、床板引っぺがして燃やすとか言うんじゃねえだろうな? それでなくても隙间风がひでえってのに、さらに足元から冷気を引っ张り込んでどうする。そんな、タコが自分の足を喰うようなマネはごめんだぞ?」
「あー、畜生ッ!! まったくツイてねえな」
普段だったら、ここで壁にでも拳の一発二発入れて忧さを晴らすのだが、今回ばかりはそうも行かず、ラルフはぎりりと歯轧りをした。なにしろ、外の吹雪の势いで、今にも吹き飞びそうな山小屋だ。その上、今はその山小屋だけが頼りなのだから、怒りに任せて鉄拳を食らわせて、崩壊させてしまうわけには行かない。
そんなことをしたら、2人は猛吹雪の雪山に放り出される羽目になってしまう。
大体にして、あのくじ引きからツイてねえ、とラルフは思う。
2方向から进める作戦のために、チームを分けたのはいい。まずかったのは、そのクジを引き负けたことだ。よりにもよって、季节外れの山登りの方が当たっちまうとは。しかも山登りコースには、作戦の都合でもれなくレオナが付いてくる。
それでも何とか任务自体は完了。これも问题はない。
最大の问题は、下山途中に、突然の猛吹雪に遭ってしまったことだ。数メートル先も见えない猛吹雪の中を下山するのはあまりにもリスキーな赌けで、その中でやっと见つけた、放弃されたと思われる朽ちかけた山小屋に逃げ込むより他なかった。
麓の本队に连络を取ろうにも、携帯电话はおろか、通信机すら役に立たない。吹雪のせいで、ノイズがひどいのだろう。それにもし连络が取れたとしても、この吹雪の中でどうやって、救助の手を差し伸べるというのか。
「この季节なら……过去のデータを考えれば、それほど长い吹雪にはならないと思う。最悪でも数日耐えれば、无事に下山できるはずよ」
「……っとにお前は、小憎らしいほど冷静だな、レオナ」
「そう?」
「その数日を耐えるのがどれだけ大変か、わかってねえ訳じゃないだろ?」
今回の作戦は、何よりもスピードが胜负だった。そのため、身軽さを重视して装备は最低限。食料も燃料も、ほとんどゼロに近い。そんな无理な作戦だからこそ彼らが駆り出されたのだが、食料はともかく(戦场でまともに食えないのは惯れっこだ)、暖を取るための燃料が乏しいのは、この状况では致命的だ。
せめてこの山小屋に薪でもあればよかったのだが、もう放弃されてかなりの年月が経っているらしく、使えそうなものは见当たらない。かといって、外に探しに行く訳にも行かない。
「せめてもうちょいマシなとこならいざ知らず、こんな隙间风だらけのボロ小屋で火も焚けずにいたら、一晩もたずに冻え死んじまうぞ? それでもそんな落ち着いたクチを利くかよ、この娘っこは!?」
唯一と言っても过言ではない防寒具である、军用マントにくるまったまま、レオナはラルフが言い散らすのをじっと闻いていた。その表情は、ラルフの言うとおり、まるで冷静さを欠いていないように见える。それがまた気に入らなくて、ラルフはむっつりと黙り込んだ。
天候が悪化したのは勿论レオナのせいではないし、彼女のせいで作戦の予定がずれ込んで、下山のタイミングを逃したわけでもない。
长い佣兵生活の中では、もっと酷い状况もずいぶん体験したはずなのに、なぜか异様な苛立ちと焦燥感に袭われる。
それは、自然という抗いようのないものの胁威に晒されていることへの、本能的な恐怖かだったのかもしれない。もしかするともっと単纯に、いけ好かない饿鬼と2人きり、という状况のせいかもしれなかったが。
「クラークはもう、麓のホテルでのんびりやってるんだろうなあ」
挙句の果てには、愚痴まで出た。クラークの引き受けた任务も、决して楽なものではなかったが、それでもこっちよりはマシだろう、と思う。
「……暖をとる方法なら、案がない訳ではないけれど」
ややあって、しばらく考え込んでいた风のレオナが言った。
「案? まさか、床板引っぺがして燃やすとか言うんじゃねえだろうな? それでなくても隙间风がひでえってのに、さらに足元から冷気を引っ张り込んでどうする。そんな、タコが自分の足を喰うようなマネはごめんだぞ?」