レストランでの一幕
「わー! 広いねー!」
「本当にな……」
案内された部屋に移動した俺たちは、その部屋の内装に驚いた。
一番高い部屋というだけあり、大きなベッドが三つ並んでてもまだまだ広く、床や机、椅子のどれもが高級な素材で作られていることが素人目でも分かった。
何より一番すごいのは、部屋のバルコニーから見渡せる景色だ。
しかも、この一面の海を展望できるこのバルコニーには、ジャグジーが備えられている。
ジャグジーはこのスイートルームにしか備えられていないという魔道具で、とんでもなく高価らしい。てか、魔道具の幅広さよ。この世界って電気や科学が発展してないのに、魔法でだいたいなんとでもなっちゃうもんな。
さすがにテレビやネットといった、世界規模の魔道具はないみたいだけど、それでも十分すぎる。
部屋の中を見ていると、同じくジャグジーを見つけたサリアが目を輝かせた。
「すごーい! お部屋の中にお風呂があるよ! 誠一、一緒に入ろ!」
「いいいいい一緒に!?」
「ばっ! サリア、何言ってやがる!?」
サリアのとんでもない発言に俺もアルも目を見開いた。
だが、サリアは不思議そうに首を捻る。
「なんで驚いてるの?」
「な、何でって……普通に考えて不味いだろ!?」
「どうして? 私は誠一のお嫁さんだよ?」
「ふぁ!?」
ここに来て俺の嫁さん発言に、俺の思考は停止した。
い、いいのか……? サリアは俺のお嫁さんだし、いいんですか……!?
正常な思考ができないでいると、顔を真っ赤にしてアルが叫ぶ。
「そ、そうかもしれねぇが、オレもいるんだぞ!?」
「え? アルも一緒に入らないの?」
「へ!?」
サリアさああああん?
アルも一緒にというサリアの発言に、今度はアルが固まった。
「おおおおおおオレも一緒に!?」
「うん」
「お、オレが……誠一と……?」
どんどん顔を赤くしていくアルだったが、やがて脳で処理できる範囲を超えたようで、顔から煙を吹きだした。
「アル、しっかりしろ! アルがしっかりしないと誰がツッコむんだ!?」
「オレと……誠一……裸……」
「アルうううううううううう!」
ダメだ、アルが戻ってこない……!
俺としては、そりゃあサリアたちと入るだなんて天国のような状況であることに間違いはないが、もっと健全なお付き合いをしたいわけでして……!
アルに至っては、ご両親に挨拶もさせてもらってないし……!
何とかアルを正気に返そうと肩を掴んでゆすっていると、爆弾発言をした当のサリアがバルコニーから海を眺め、口を開いた。
「それにしても、すごいね! これが海なんだ……」
感動した様子で呟くサリアに、ようやく正気に返ったアルも、同じく海に視線を向けた。
「あ、ああ。確かにすごいよな。こんなデッケェ水たまりがあるなんてよ」
「水たまりって……」
アルの例えに思わず苦笑いを浮かべると、サリアはアルの言葉に頷いている。
「本当に大きな水たまりだね! 池とか川は見たことあるけど、世界にはこんな大きな水の世界が広がってるんだねー……」
海を初めて見たサリアの感想に、俺は改めてあの森をサリアと一緒に出てよかったと思った。
これからも、サリアたちと知らない世界を見ていけたらいいなぁ。
しばらくの間まったりとした時間を過ごしていると、ルルネたちが俺たちの部屋に遊びに来て、そのままレストランへと向かうことになるのだった。
◇◆◇
「「「「「…………」」」」」
ホテルに併設されているレストランにやって来た俺たちは、ただただ呆然としていた。
「ふむ……中々の味だな……む、こちらも捨てがたい……おお、これは好みの味付けだ……おい、量が少ないぞ!」
運ばれてはそのまま積み重なる皿を前に、ルルネは足を組み、どこぞの評論家のようなことを口にしながら凛々しい表情を浮かべている。
そんな意味不明な光景に、食事を運んでくる店員さんもただただ絶句していた。
お腹が限界だとルルネが言うので、とにかく料理をかたっぱしから注文しまくったのだが、その結果が目の前の光景である。
最高級の部屋に泊まる俺たちは、ルームサービスの一環として、部屋に食事を運んでもらうこともできるようだが、それだと待つ時間がかかるということもあり、ルルネの腹をとにかく満たすためにレストランに来たのだ。
「む、何をしている? 早くおかわりを持ってこないか」
「は、はい、ただいま!」
「いやいやいや!」
つい唖然とその光景を見つめていたが、俺はついにツッコんだ。
「腹が減ってたのは知ってるよ? でもおかしいだろ!? なんで食事が運ばれると同時に皿の上が空になるんだ!?」
「もちろん、私が食べてるからですが?」
「ウソだろ!?」
何当たり前のことを聞いてるんだといった様子のルルネだが、待ってほしい。
さっきから料理が運ばれてきては、俺たちはその料理が何なのか確認することなくすでに皿が空になっているのだ。
しかも、その料理を食べているというルルネは、特別咀嚼している様子もなく、ごくごく自然体に座ったまま、こうして普通に会話までしているのである。どう見ても口は何かを食べているようには見えない。
もし何かを口に入れていたら、少なくともしゃべりにくいはずだし、いくら早食いだと言ってもさすがに限度がある。
「手品の間違いだろ!? 食べてるっていう割には、お前普通に喋れてるし!」
「え? それは体で食べてますから……」
「お前は何を言ってるんだ!?」
体で食べるって何だよ!? 食事は口でするもんだろ!?
つか……!
「さっきからお前しか食べてねぇじゃん! 俺らにもご飯を回せよ!」
「おかわり!」
「話を聞けええええええええええ!」
おかわりじゃねぇよ! 見てみろよ、店員さんの顔! 超引き攣ってるからね!?
一食分であれば、問題なく部屋料金に食事代も含まれているのだが、ルルネの食いっぷりはどう考えても限度を超えている。追加で支払うのは確実だろう。お金の心配は一切ないとはいえ、ルルネは遠慮を覚えた方がいい。
「そもそも、そんな回転ずし感覚で食うもんじゃねぇだろ!? どう見ても高級料理……って、確認する間もなく食われてるから、どんな料理だったのか分からないだと……!?」
ホテルの質的に、このレストランで出される料理も高級なはずなのだが、ルルネのせいで全く分からない。
俺たち、レストランに来てから皿しか見てないからね?
すると、店員さんが運んできた料理をまたも空にしながら、ルルネが俺の言葉に反応した。
「回転ずしって何ですか!?」
「料理にだけ反応するのやめてくれる!?」
てか、もしルルネが地球に来るようなことがあれば、回転ずしは隣の席に周ってくることなくすべての寿司を食いつくすだろう。最悪すぎる。
『ヘブン・パウダー』のせいで街に着いたときはどこもお店が閉まってて、料理を楽しめなかったから、ルルネが嬉しいのは分かる。
でも、俺らも同じでせっかくの海の料理が食べられなくて悲しかったのだ。
「わー……ルルネちゃん、よく食べるねー」
「……これ、オレたちが食べるぶん、残るのか?」
「さ、さあ……? どうなんでしょうか……」
ルルネの食いっぷりに、サリアたちも何て言えばいいのか分からないらしい。そりゃそうだ。俺も戸惑ってますからねぇ!
ルルネの暴走っぷりに頭を抱えていると、何故かオリガちゃんが泣き始める。
「お、オリガちゃん!? どうしたの!?」
「……ぐす。ごめんね、誠一お兄ちゃん。食いしん坊、生物じゃなくなっちゃった……」
「生物じゃなくなった!?」
じゃあ今ここにいるのは何者なのよ!? 元はロバですからね!?
「……ぐす。食いしん坊、宇宙になっちゃった……」
もう意味が分からない。
何をどうすればロバから宇宙にジョブチェンジできるんですかね。
すべての間違いは、ルルネに人間の食べ物を与えたことだな。そうに違いない。
「もうよく分からんが、俺たちにも食わせろおおおおおお!」
何とかルルネの暴走を制御しつつ、俺たちはようやく食事を始めることができた。
というより、ようやくまともに食事を皿の上で見ることができた、という方が正しいかもしれない。
今まで空皿しか見てなかった俺たちの目の前には、透き通るような刺身や、よく煮られた魚など、とても美味しそうな料理の数々が目に飛び込んできたのだ。
……こんな旨そうで綺麗な料理が、俺たちの目に入ることなく空皿になってたとか恐ろしすぎるだろ。
そんな美味しそうな料理だが、唯一不安な料理が一品だけ存在した。
それは……。
「あ、あの……このフライって……『ヘブン・パウダー』使われてます?」
――――白身魚のフライの料理だ。
スカーさんが言うには、『ヘブン・パウダー』は唐揚げやてんぷら、フライ料理などと非常に相性がいいらしいので、この料理に使われていてもおかしくない。
なので、恐る恐る料理を運んできた店員さんに尋ねると……。
「ああ、ご安心ください。当店では『ヘブン・パウダー』は使用しておりません。というより、どこの食堂でも使われていないと思いますよ?」
「え、そうなんですか?」
「なんせ、すべての料理の味が『ヘブン・パウダー』に持っていかれてしまいますから……料理人としては、たまったものではないですし。もちろん、個人で使うのはどこの店も禁止にはしていないので、もし『ヘブン・パウダー』を使いたくなれば、自分で所持しておく必要がありますね。料理人の方々も自分の家には『ヘブン・パウダー』を置いてる方が多いので、『ヘブン・パウダー』自体を否定しているわけではありませんし」
「なるほど……」
『ヘブン・パウダー』の弊害がすさまじい。
味はいいのかもしれないが、料理人泣かせ過ぎるだろ。
でも、この街の料理を楽しみたい俺からすると、それはとてもありがたかった。
それはサリアたちも同じだったようだが、ルルネだけ少しがっかりしていた。コイツに食わせるのだけはダメだ。
ただでさえ、宇宙になったとか訳の分からん状況なのに、『ヘブン・パウダー』を食ったら何になるんだ? 神ですかね?
「んー! この魚、美味しいね!」
「ああ。生で魚を食べるってのは初めてだが……かなり美味いな」
「わー! 広いねー!」
「本当にな……」
案内された部屋に移動した俺たちは、その部屋の内装に驚いた。
一番高い部屋というだけあり、大きなベッドが三つ並んでてもまだまだ広く、床や机、椅子のどれもが高級な素材で作られていることが素人目でも分かった。
何より一番すごいのは、部屋のバルコニーから見渡せる景色だ。
しかも、この一面の海を展望できるこのバルコニーには、ジャグジーが備えられている。
ジャグジーはこのスイートルームにしか備えられていないという魔道具で、とんでもなく高価らしい。てか、魔道具の幅広さよ。この世界って電気や科学が発展してないのに、魔法でだいたいなんとでもなっちゃうもんな。
さすがにテレビやネットといった、世界規模の魔道具はないみたいだけど、それでも十分すぎる。
部屋の中を見ていると、同じくジャグジーを見つけたサリアが目を輝かせた。
「すごーい! お部屋の中にお風呂があるよ! 誠一、一緒に入ろ!」
「いいいいい一緒に!?」
「ばっ! サリア、何言ってやがる!?」
サリアのとんでもない発言に俺もアルも目を見開いた。
だが、サリアは不思議そうに首を捻る。
「なんで驚いてるの?」
「な、何でって……普通に考えて不味いだろ!?」
「どうして? 私は誠一のお嫁さんだよ?」
「ふぁ!?」
ここに来て俺の嫁さん発言に、俺の思考は停止した。
い、いいのか……? サリアは俺のお嫁さんだし、いいんですか……!?
正常な思考ができないでいると、顔を真っ赤にしてアルが叫ぶ。
「そ、そうかもしれねぇが、オレもいるんだぞ!?」
「え? アルも一緒に入らないの?」
「へ!?」
サリアさああああん?
アルも一緒にというサリアの発言に、今度はアルが固まった。
「おおおおおおオレも一緒に!?」
「うん」
「お、オレが……誠一と……?」
どんどん顔を赤くしていくアルだったが、やがて脳で処理できる範囲を超えたようで、顔から煙を吹きだした。
「アル、しっかりしろ! アルがしっかりしないと誰がツッコむんだ!?」
「オレと……誠一……裸……」
「アルうううううううううう!」
ダメだ、アルが戻ってこない……!
俺としては、そりゃあサリアたちと入るだなんて天国のような状況であることに間違いはないが、もっと健全なお付き合いをしたいわけでして……!
アルに至っては、ご両親に挨拶もさせてもらってないし……!
何とかアルを正気に返そうと肩を掴んでゆすっていると、爆弾発言をした当のサリアがバルコニーから海を眺め、口を開いた。
「それにしても、すごいね! これが海なんだ……」
感動した様子で呟くサリアに、ようやく正気に返ったアルも、同じく海に視線を向けた。
「あ、ああ。確かにすごいよな。こんなデッケェ水たまりがあるなんてよ」
「水たまりって……」
アルの例えに思わず苦笑いを浮かべると、サリアはアルの言葉に頷いている。
「本当に大きな水たまりだね! 池とか川は見たことあるけど、世界にはこんな大きな水の世界が広がってるんだねー……」
海を初めて見たサリアの感想に、俺は改めてあの森をサリアと一緒に出てよかったと思った。
これからも、サリアたちと知らない世界を見ていけたらいいなぁ。
しばらくの間まったりとした時間を過ごしていると、ルルネたちが俺たちの部屋に遊びに来て、そのままレストランへと向かうことになるのだった。
◇◆◇
「「「「「…………」」」」」
ホテルに併設されているレストランにやって来た俺たちは、ただただ呆然としていた。
「ふむ……中々の味だな……む、こちらも捨てがたい……おお、これは好みの味付けだ……おい、量が少ないぞ!」
運ばれてはそのまま積み重なる皿を前に、ルルネは足を組み、どこぞの評論家のようなことを口にしながら凛々しい表情を浮かべている。
そんな意味不明な光景に、食事を運んでくる店員さんもただただ絶句していた。
お腹が限界だとルルネが言うので、とにかく料理をかたっぱしから注文しまくったのだが、その結果が目の前の光景である。
最高級の部屋に泊まる俺たちは、ルームサービスの一環として、部屋に食事を運んでもらうこともできるようだが、それだと待つ時間がかかるということもあり、ルルネの腹をとにかく満たすためにレストランに来たのだ。
「む、何をしている? 早くおかわりを持ってこないか」
「は、はい、ただいま!」
「いやいやいや!」
つい唖然とその光景を見つめていたが、俺はついにツッコんだ。
「腹が減ってたのは知ってるよ? でもおかしいだろ!? なんで食事が運ばれると同時に皿の上が空になるんだ!?」
「もちろん、私が食べてるからですが?」
「ウソだろ!?」
何当たり前のことを聞いてるんだといった様子のルルネだが、待ってほしい。
さっきから料理が運ばれてきては、俺たちはその料理が何なのか確認することなくすでに皿が空になっているのだ。
しかも、その料理を食べているというルルネは、特別咀嚼している様子もなく、ごくごく自然体に座ったまま、こうして普通に会話までしているのである。どう見ても口は何かを食べているようには見えない。
もし何かを口に入れていたら、少なくともしゃべりにくいはずだし、いくら早食いだと言ってもさすがに限度がある。
「手品の間違いだろ!? 食べてるっていう割には、お前普通に喋れてるし!」
「え? それは体で食べてますから……」
「お前は何を言ってるんだ!?」
体で食べるって何だよ!? 食事は口でするもんだろ!?
つか……!
「さっきからお前しか食べてねぇじゃん! 俺らにもご飯を回せよ!」
「おかわり!」
「話を聞けええええええええええ!」
おかわりじゃねぇよ! 見てみろよ、店員さんの顔! 超引き攣ってるからね!?
一食分であれば、問題なく部屋料金に食事代も含まれているのだが、ルルネの食いっぷりはどう考えても限度を超えている。追加で支払うのは確実だろう。お金の心配は一切ないとはいえ、ルルネは遠慮を覚えた方がいい。
「そもそも、そんな回転ずし感覚で食うもんじゃねぇだろ!? どう見ても高級料理……って、確認する間もなく食われてるから、どんな料理だったのか分からないだと……!?」
ホテルの質的に、このレストランで出される料理も高級なはずなのだが、ルルネのせいで全く分からない。
俺たち、レストランに来てから皿しか見てないからね?
すると、店員さんが運んできた料理をまたも空にしながら、ルルネが俺の言葉に反応した。
「回転ずしって何ですか!?」
「料理にだけ反応するのやめてくれる!?」
てか、もしルルネが地球に来るようなことがあれば、回転ずしは隣の席に周ってくることなくすべての寿司を食いつくすだろう。最悪すぎる。
『ヘブン・パウダー』のせいで街に着いたときはどこもお店が閉まってて、料理を楽しめなかったから、ルルネが嬉しいのは分かる。
でも、俺らも同じでせっかくの海の料理が食べられなくて悲しかったのだ。
「わー……ルルネちゃん、よく食べるねー」
「……これ、オレたちが食べるぶん、残るのか?」
「さ、さあ……? どうなんでしょうか……」
ルルネの食いっぷりに、サリアたちも何て言えばいいのか分からないらしい。そりゃそうだ。俺も戸惑ってますからねぇ!
ルルネの暴走っぷりに頭を抱えていると、何故かオリガちゃんが泣き始める。
「お、オリガちゃん!? どうしたの!?」
「……ぐす。ごめんね、誠一お兄ちゃん。食いしん坊、生物じゃなくなっちゃった……」
「生物じゃなくなった!?」
じゃあ今ここにいるのは何者なのよ!? 元はロバですからね!?
「……ぐす。食いしん坊、宇宙になっちゃった……」
もう意味が分からない。
何をどうすればロバから宇宙にジョブチェンジできるんですかね。
すべての間違いは、ルルネに人間の食べ物を与えたことだな。そうに違いない。
「もうよく分からんが、俺たちにも食わせろおおおおおお!」
何とかルルネの暴走を制御しつつ、俺たちはようやく食事を始めることができた。
というより、ようやくまともに食事を皿の上で見ることができた、という方が正しいかもしれない。
今まで空皿しか見てなかった俺たちの目の前には、透き通るような刺身や、よく煮られた魚など、とても美味しそうな料理の数々が目に飛び込んできたのだ。
……こんな旨そうで綺麗な料理が、俺たちの目に入ることなく空皿になってたとか恐ろしすぎるだろ。
そんな美味しそうな料理だが、唯一不安な料理が一品だけ存在した。
それは……。
「あ、あの……このフライって……『ヘブン・パウダー』使われてます?」
――――白身魚のフライの料理だ。
スカーさんが言うには、『ヘブン・パウダー』は唐揚げやてんぷら、フライ料理などと非常に相性がいいらしいので、この料理に使われていてもおかしくない。
なので、恐る恐る料理を運んできた店員さんに尋ねると……。
「ああ、ご安心ください。当店では『ヘブン・パウダー』は使用しておりません。というより、どこの食堂でも使われていないと思いますよ?」
「え、そうなんですか?」
「なんせ、すべての料理の味が『ヘブン・パウダー』に持っていかれてしまいますから……料理人としては、たまったものではないですし。もちろん、個人で使うのはどこの店も禁止にはしていないので、もし『ヘブン・パウダー』を使いたくなれば、自分で所持しておく必要がありますね。料理人の方々も自分の家には『ヘブン・パウダー』を置いてる方が多いので、『ヘブン・パウダー』自体を否定しているわけではありませんし」
「なるほど……」
『ヘブン・パウダー』の弊害がすさまじい。
味はいいのかもしれないが、料理人泣かせ過ぎるだろ。
でも、この街の料理を楽しみたい俺からすると、それはとてもありがたかった。
それはサリアたちも同じだったようだが、ルルネだけ少しがっかりしていた。コイツに食わせるのだけはダメだ。
ただでさえ、宇宙になったとか訳の分からん状況なのに、『ヘブン・パウダー』を食ったら何になるんだ? 神ですかね?
「んー! この魚、美味しいね!」
「ああ。生で魚を食べるってのは初めてだが……かなり美味いな」