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回复:【原著延伸小说】新白雪姬传说文库版

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う〜ん。それにしても弥生ちゃんの想像力って……!
あたしが男性だったらお婿にしたいっていうのはねえ。
弥生ちゃんは大親友だけどさ。
それは遠慮しときますぅっ!


IP属地:广东31楼2019-08-22 14:30
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    第六章:ホームぺージdeゲーム
    「あちゃあ、またフリーズしちゃった!え、どうして?どうして?あたしが何悪いことしたっていうのよ、おいおいおい、ねえ、なんとか反応して!」
    「姫乃。何パソコンに当たってるの?」
    「あ、弥生。助けてよ、なんかフりースしちゃって、マウスのポインタすら動かないの」
    「どれどれ。かしてよ、うーんと、……あら本当だ,これ、だめ、強制終了するしかないわね」
    「やだ、強制終了したら今、入力したデーク消えちゃうんでしょ?」
    「保存してある分は、大丈夫よ」
    「それが……保存してないんだってば」
    「え—!?それはだめよぉ。こまめに保存しろって、最初に習ったじゃない」
    「んだからね。そろそろ保存しなくちゃって思ってた矢先だったの。そしたらさ、画面が動かなくなっちゃって」
    「そりゃあ、自業自得よ。ま、諦めるのね」
    締めろと言われても、すぐには諦めきれない姫乃だった。
    悪戦苦闘して、入力したデータ。その苦労も無駄に終わる。
    たから、パソコンて、嫌い。
    淡雪女学院では、パソコンは必修科目になっている。
    世の中のIT化をいちはやく教育現場に導入したので、初等部の児童だって、もっと幼い幼児部の園児でも、パソコンを扱い慣れているという評判かある。
    高等部の生徒のうち半数以上は中等部からの内部進学者で、彼女たちは高校生になった時点でもうパソコンをすっかりマスターしているのだ。
    けれども、姫乃や弥生のように高等部から学院に入学した場合、パソコンに不慣れな生徒も多い。そこで、高等部では放課後に外部進学者の一年生を対象としたパソコン授業が行われている。
    たが、正直言って姫乃は苦手。
    理数系の機械とかハイテク系のものが弱いのだ。
    パソコンの授業を受ける度に、トラブって、親友の弥生に助けてもらっている。
    「じゃあ、もう仕方ないんで強制終了しちゃうわよ。コマンドはえーっと……このキーと…」
    「あ、弥生、ちょっと待って!」
    姫乃は弥生を制した。そして、ノートと鉛筆を取り出して、画面に入力していたデータを写し始めた。
    (なにもバソコンを使わなくても、紙と鉛筆さえあれば何だって書けるのよ。お父さんだって、そうしてたし。最初っから紙に書けば、こういう二度手間もないわけだし)
    父親の薫は、かつて一世を風靡した少女小説家だった。
    父は母が亡くなり、姫乃がもの心ついた頃にはもう小説は書かなくなっていたとはいうもの、原稿用紙にひたすらペンを走らせていた頃の父の姿の記憶は、おぼろげながら残っている。
    たとえ昔からパソコンがあったとしても、本質的にアナログ人間の父は、頑なに拒否してるだろう。
    「君たち何か、トラブってるのかな」
    教室を見回っていた、インストラクターの蛍が姫乃たちに声をかけた。
    さらさらと艶のある前髪をかき上げると、輝くような眼差し。
    ラベンダーブルーのシャツにレモンイエローのネクタイがよく似合う上品で、そこはかとない知的な雰囲気を漂わしている美少年の姿がそこにあった。
    「あ、蛍先生。淡雪さんのパソコン、フリーズしちゃって。これ、強制終了するしかないですよね」
    「どれどれ?」
    「蛍くん、何とか助けてよ」
    姫乃はノートにータを写す手を止めた。
    「ウオッホン。淡雪さん、ここは学校ですから、一応先生と呼んでください』
    蛍は咳払いをした。
    「あ、ごめんなさい、蛍先生」
    とはいうものの、蛍を『先生』と呼ぶのもなんだか違和感があるし、蛍に『淡雪さん』と苗字で呼ばれるのも違和感がある姫乃であった。


    IP属地:广东32楼2019-08-22 14:34
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      2025-05-21 21:01:02
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      蛍は先生といっても淡雪女学院の教師ではない。
      淡雪タウンにあるパソコンソフトの制作会社から派遣されて来ているインストラクターなのだ。
      ふだんはHPのソフトやゲームソフトの開発に携わっているプログラマー。ただし正社員ではなくアルバイトの身分。
      姫乃は蛍が顔見知りということは学校ではいちおう内緒にしている。
      聞かれた埸合は〃職場〃で同僚だったりもするわけだし、と答えるようにしている。
      姫乃が高校生になって、初めてアルバイトしたカフェレストラン『ラ・ネージュ』の系列店に『サイバー・カフェ』というインターネットカフェがある。
      系列店ということで、人手が足らない時は『ラ・ネージュ』の店員が『サイバー・カフェ』にヘルプに行くこともしばしばあった。
      たから姫乃もよく手伝いに行かされたのだ。
      パソコンのことはねからなくても、ウェイトレスとしてま同じ仕事なので、機械が苦手な姫乃でも、問題はなかった。
      カフェのパソコンのサポートに関しては、専門の会社から派遣されたスタッフが担当した。
      それが蛍の働いている会社で、『サイバー・カフェ』と同じビルにある。
      当然、蛍がカフェの店員として働くこともあった。
      そんなわけで〃同僚〃のときは『蛍くん』『姫乃くん』と呼びあっていたし、第一普段は『蛍』『姫乃」と呼んでいる。『先生』と今さら呼ぶのは照れ臭いのだ。


      IP属地:广东33楼2019-08-23 10:06
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        「なんだ、これフリーズじゃないな」
        「え?完璧に壊れちゃったとか」
        「うん、そのようだな」
        「うわあ。どうしよう」
        焦る姫乃だった。
        パソコンは学院の備品だ。
        故意に壊したわけではないとはいえ、パソコンを壊した話は尾ヒレ羽ヒレがついて、どうせ義姉・繭根の地獄耳に届くに違いない。
        そして義母の夏江に告げロされるのは目に見えている。
        「大丈夫、すぐなおるよ」
        蛍はそう言って、心配顔の姫乃の肩をぽんと叩き、そしてマウスをはずした。
        「壊れたのは、パソフンじゃなくてこれ、新しいのに取り替えればいいのさ。今、新しいマウスに取り替えるからわ」
        「じゃあ、強制終了しなくていいの?」
        「もちろん。データは失われない。なんかトラブルとすぐりセットしようとしがちだけど、ちよっと落ち着いて他に原因がないか調べるといいよ」
        「じゃあ、もうノートに写さなくていいんだ」
        蛍が言った通り、マウスを取り替えただけで、また画面はすいすいと動き出した。
        データは無事保存され、フロッピーディスクにもコピーしたし、プリントアウトもできた。
        ても、姫乃にはそれが、かえって憎たらしくも思えた。
        (何か、あたし、パソコンに馬鹿にされてる感じ)
        「ステキ……」
        唐突に弥生が声をもらした。
        「何が」
        「蛍先生よ。ハンサムで優しくて、知的で身のこなしがスマートで。『淡雪タウン・いい男リスト』に追加しておかなくっちゃ」
        眼鏡の奥の瞳がハートマークになっていた。
        (あら、また始まったか……)
        『淡雪タウン・いい男リスト』……淡雪タウンで人気と噂される男たち。
        DJの細、フリーターの颯、ウェイターの豪……
        そして今日、弥生のリストにはプログラマーの蛍が加わった
        (弥生って森林みたい!)
        と姫乃は思った。気(木)が多いからだ。
        「ねえねえ、姫乃は、バイトで蛍先生と一緒だったんでしょ。彼女とかいるのかなあ。どんな女の子がタイプなのか知ってる?」
        「彼女がいるっていう噂は聞いてないけど」
        「もしかして、姫乃とつきあってたり?」
        「まさか。蛍っ……あ、蛍先生って、女の子には優しいけど、でも基本的には孤独を好むタイプみたい」
        そうなのだ。
        姫乃が知ってる蛍は、いつもパソコンにむかって黙々と仕事をしていた。
        店のスタッフも言ってた。
        「あいつ、モテるのに彼女いないんだよな」
        と。


        IP属地:广东34楼2019-08-23 10:07
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          終業のチャイムが鳴った。
          「蛍先生。質問あるんですけどいいでしょうか? 」
          「先生、私も質問」
          「わたしも!」
          授業が終わっても、教室にはたくさんの女生徒が蛍に質問をしようと、残っていた。
          こんな風に生徒が熱心になるパソコンの授業も、珍しい。
          それは、今日のインストラクターが、丁寧で教え方がうまい上に、美形だからだろう。
          明るい光の下では、黄金色に輝くさらさらの髪。
          そして、一見日本人離れした貴公子風。
          女の園にはちと刺激が強すぎる存在かもしれない。
          しかもパソコンの授業は派遣のインストラクターが来て指導するので、毎回顔触れが変わる。
          蛍みたいなビジュアル系はめったにいない。
          どちらかというと、暗くて地味でビジュアル系とは対極にあるタイプが多いのだ。
          だから、今日、このチャンスを逃すまじ、と彼女たちもひっちゃきになるのだろう。
          「蛍先生、今日『サイバー・カフェ』に行ってもいいですか?」
          「え、いいけど」
          「今日から、新しいゲームが公開されるんですよね」
          「よく知ってるね」
          「インターネットで調べたんです。先生がプログラミングしたって書いてあった」
          「キャー、ステキ!どんなゲームなんですか?」
          「面白いですか?」
          「当然。僕が作ったゲームだからね。面白くて当然。エキサイトして当然。自信作だよ」
          「うわあ。それで、それで、どんな内容なんですか?」
          「それは、店に来てのお楽しみということで。ま、高得点とれたら、僕のキャラをデザインしたマスコット人形あげるよ」
          「うっそー、行きたい、行きます絶対!」
          蛍を囲んだ女生徒たちは興奮気味であった。
          「先生!あたしも行きます!」
          そのとき一段と大きな声を発したのは姫乃だった。
          パソコンは苦手だけど、姫乃はゲームは大好きだからだ。
          「いいけど。ただ今日は混んでて、もしかしたら入場制限するかも」
          「そこをなんとか、先生の実力で、お願いしますよ」
          「いや、僕の力では何とも……」
          「やだ!絶対入れて!」
          「そうだ、そうだ」
          「じゃなかったら、学校でストしてやる」
          「バリケード張って先生を返してやらないから」
          「わ、わ、わかった。なんとか……するよ」
          「やったー!」
          生徒たちは大喜び。
          恐るべし! 女生徒たち。
          一丸となって詰め寄ると、蛍は、圧倒されたという感じだった。
          だが、蛍にはちゃんと女生徒たちの目論見がわかっていた。
          一人の女の子を除いて、あとはゲームのことはどうでもいいということを。
          目的は”蛍”自身なのだ。
          唯一例外なのは、姫乃だ。
          (姫乃って、ゲームだけはめちゃくちゃ好きだからなあ)
          パソコンは嫌いと言ってた姫乃が、ゲームパッドやジョイスティックを接続してゲーム機に豹変しいた。、パソコンなら、全く抵抗感なく使いこなせるのを、蛍は実際に見て知っている。
          蛍がプログラミングした格闘技系のゲームの試作を、『サイバー・カフェ』の店員にモニターしてもらったとき、一番ハイスコアをマークしたのも姫乃だった。


          IP属地:广东35楼2019-08-23 10:07
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            姫乃たち淡雪女学院の生徒御一行が『サイバー・カフェ』に着いたときには、店の前の遊歩道に、長い行列ができていた。
            『サイバー・カフェ』のゲームはこの店でしかプレーできないとあって、普段から人気がある。
            ましてや今日初めて公開される最新のゲ—厶となれば、たちどころに行列ができる。
            ゲームソフトとして他で売られたりもしないし、ネットからもダウンロードできないので、みなこの店に来るしかない。
            なるほど、実にうまい集客作戦だ。
            「すごい、行列。めげるわね」
            「大丈夫だよ、弥生。三十分も待てば入れるよ。ほら、列も少しずつ前に進んでるみたいだし」
            三十分とは読みが浅かった。
            四十五分並んで待って、ようやく店内に入ることができた。
            「姫乃くんたち、こっちの席にどうぞ」
            姫乃たちの姿を見つけた蛍が、一番奥のエリアの席に案内してくれた
            そして、小声で言った。
            「本当は今、行列できてるからゲームは一人三十分一回のみという制限つけてるんだけど、この席は死角になって目立たないから、君たちは制限なしで何度でも存分に楽しんで」
            「サンキュー、蛍」
            「みなさん、今日は俺の生徒さんだったから、ちょっとサービス。ただし、大騒ぎしちゃうとまずいから静かにね」
            「了解」
            「注文は、みんな当店自慢のシフォンケーキのセットでいいかな」
            「はい、ミルクティーでお願いします」
            「そちらのお友達は?」
            「わたしは、カプチーノで」
            「私、ココア」
            「あたしは……」
            「……てことはミルクティー三つ、カプチ—ノ二つ ココア三つね。いつものようにクリ一ムもたっぷりつけとくね」
            (蛍、授業のときと違って、ご機嫌だなあ。生き生きしてる。やっぱり自分の開発したゲームが評判で、満員御礼になったからかな)
            蛍が普段以上に積極的に優しいので、うれしくなってしまう姫乃だった。
            だが、姫乃はパソコン画面を見た途端、気分が憂鬱になった
            「あれ、何このゲーム!?」
            モニターの画面は、スタートボタンをクリックすればいつでもゲームができるようにスタンバイしてあるのだけれど、『お読みください』という能書きに目を通すと、なにやら姫乃が想像していたようなゲー厶とはテイストが違うのだ。
            ゲームの表題は『ミステリー・ロマン・アドベ ンチャー』とある。
            格闘技系のゲームの他にアドベンチャー系も好きだから、嫌いなジャンルではない。
            姬乃除了喜欢格斗类的游戏以外,也喜欢冒险类游戏,这款游戏不是她讨厌的类型。
            なんでも、自分が主人公となって、理想の恋人を見つけるために旅に出るのだが、道中いろいろな人物と出会い、さまざまな事件に巻き込まれる。それをひとつひとつクリア
            して本物の理想の恋人を探し出すというストーリーなのだ。
            つまり、理想の恋人だ思った人物が、悪者だったりするギミックがある。
            めでたく恋人を見つけるとウエディングベルがなる結婚式シーンが画面で見られるらしいが、間違ってしまうと人生の墓場に生き埋めにされるらしい。
            理想の恋人というのはいかにも蛍らしい発想だな、と姫乃は思った。
            蛍は仕事に対しても、いいかげんに妥協するタイプではないけど、恋人を選ぶということでも、理想が高くて妥協しないんだろう。
            (ストーリーはいいとして、問題はゲームのやりかたよね)
            姫乃が好きなのは、あくまでもゲームパッドなどのゲーム用周辺機器が取り付けられたものに限る。
            けれどもこのゲー厶は、キーボードを使ってさまざまなコマンドを入力したり、あるキーワードを作成して入カしたり、あるいはインターネットを使って検索した結果を入力したりと、なんだか頭脳派向きのレベルが高そうなゲームなのだ。
            (げげっ、まるでパソコン授業の延長みたいな)
            姫乃は喜びいさんで来たことを後悔し始めた。
            (キー入力なんかやって、またパソコンがトラブっちゃったらど一しよ一)
            だんだん気分がへこんでくるのだった。
            「面白そうね、このゲーム!かなりハイレベルだナど」
            一方、弥生はというと、嬉々として、早くもキーボードを軽快な早さで打ち始めている。
            ロマンチックな夢見る夢子タイプの弥生には、そしてパソコン操作も苦じゃない弥生には相性よさそうなケー厶である。
            気がつくと、周りからもカチャカチャカチャカチャとキーを叩く音がいくつも重なって、ものすごいスピードの連打音として、姫乃の耳に飛び込んできた。
            取り殘されてるのは姫乃だけ。
            (あああ、あたしはついていけない!)
            それでも、スタートボタンをクリックしてとりあえずゲームを開始した。
            まず質閒がいくつかあった。
            『あなたの性別は?」
            『名前は? 』
            『誕生日は? 』
            『血液型は?』
            女というところにクリックして、チェックマークをつけることができたど、そのあとの自分の名前で「姫乃」という字が入力できない。
            何度打っても” V/K”になってしまう。
            「ねえ、弥生、自分の名前をさあ、入力したいんだけどね」
            「……」
            弥生はゲー厶に夢中になって姫乃の呼びかけが耳に入らない様子だった
            「はい、シフォンケーキセット、おまちどう」
            蛍が自らウェイターとなって、オーダーしたケーキセットを運んできてくれた。
            「うそお、蛍、ウェイターまでやるの?」
            姫乃がバイトしてるときには、蛍が積極的にそこまでするのは見たことなかったから驚きだった。
            「今日は、人手が足りないからね」
            「あたし、なんか、手伝わなくていいのかな」
            「君は今日はお客で来てるんだから、気をつかわないで。それよりどう?調子は?」
            と蛍は姫乃のモニターを覗いた。
            「あれ?どうしたの?」
            蛍の目が点になった。
            「自分の名前が入力できなくて」
            「おいおい、そんなとこからつまずいてるのか」
            「なんかひらがなにならなくて」
            「入力の設定が日本語入力になってないよ」
            「あー、そうか」
            「まず、入力切り替えをして」
            「え!?、えーっと」
            「習ったよね。今日の授業でも最初におさらいしたよ」
            「そーでしたっけ」
            「しようがないなあ。じゃあ、もう一度だけ教えるからね。今度は覚えて」
            と、蛍はキーを押して入力切り替えのコマンドを示した。
            「やってごらんよ」
            「こう……ですか」
            「そうだよ。簡単でしょ。じゃあ、名前の入力やってみて」
            今度こそと、姫乃は〃ひめの〃とキーを打ったのだけど、また”V/K ”になってしまう。


            IP属地:广东36楼2019-08-26 10:32
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              「あ、姫乃くん、このキーボードはローマ字入力になってるんだ。君、カナ入力やってたよね」
              蛍の顔は、半ば呆れ顔になっていた。
              「ローマ字入力って苦手」
              「慣れなきゃあ。ほらやってみる」
              “H・I・M・E・N・O”+変換キー”
              確かに変換キーを押したら〃姫乃”になった。
              「ふう……っ。蛍、あたし、この手のゲー厶だめ。キー入力嫌いだもん」
              「頑張ってよ。楽しいゲー厶なんだから、ほら、"次へ”のボタンをクリックして」
              「はい」
              「あとは、説明に従って、ボタンをクリックしたり、文字を入力すればいいんだ。わからないときはヘルプボタンをクリックしてみて。君みたいなパソコンビギナーでもわかるように解説してあるから」
              試しにヘルプボタンを押してみた。
              「はーい、ドクター・ヘルプの部屋へようこそ」
              画面上にぽわぽわぽわっと大きなバラの花が現われ、その花の中から、ドクター・ヘルプなる人物か登場し、にこっと微笑んだ。
              さらさらと前髪をなびかせ、貴公子風のキャラは蛍にそっくり、というかより美しくデフォルメされたキャラクターだった。
              そして、明らかにキャラの声は蛍のものだった。
              「ゲームがうまく進まなくても、ヘルプボタンを押せば、俺そっくりなキャラと楽しくコミュニケーションできる。それだけでも楽しいと思わない?」
              「......」
              思わず返す言葉に、とまどう姫乃であった。
              そりゃあ、蛍ファンの女の子だったら、嬉しいかもしれない。
              ビジュアル系の顔は、眺めていて楽しい。
              でも、大輪のバラの花から登場というのは、ちと、やりすぎではないだろうか?
              「蛍先生、すみません、ここは?」
              「あ、先生、検索のやりかたなんですけど」
              「先生」
              姫乃によってしばし〃独占状態〃だった蛍に、周りの女生徒たちから、矢継ぎ早に質問が飛んだ。
              「じゃあ、姫乃くん、あとは自力で頑張って」
              頑張ってと、言われたが、どこまで自力でできるか、ちょっと不安な姫乃であった。
              わからないと、ずっと蛍そっくりのキャラと対面し続けることになるし。
              だが、気を取り直して入力を続けた。
              すると、こんなメッセージが画面に現われた。
              「姫乃。七月九日生まれ。かに座。〇型。
              貴女は、負けず嫌いで、思い悩むことが嫌いなタイプなので、解決するために前向きに積極的に行動を起こす努力家です。努力次第で良い成果がみられるのであきらめないことです。
              運動神経は抜群ですが、反面おっちょこちょいでドジな面があり思わぬ失敗を招きやすいので気をつけましょぅ。
              長時間ものごとをじっくり考えるのもおっくうで、せっかち。細かい作業が苦手ですから、ついおおざっばになりがち。でも、そのアバウトさがかえって功を成すこともあります。
              くよくよしない、さっぱりしたその性格は異性にも同性にも支持され、人気者になるタイプでもあります。もちろん、女性らしいデリケートな一面も持ち合わせていますからそこをアピールすると、異性の心をぐっとひきつけるでしょう」
              よく当たっている、と姫乃は思った。
              占いの要素を取り入れたゲー厶。なるほどけっこう面白そうだ。
              ”次へ”をクリックすると、今度は「相性診断結果/貴女と出会う運命の四人の男性、理想の相手は誰?」
              という画面が表示された。
              そして、美形のキャラが四人画面に並んだ。
              A、B、C、Dの四人の男はこんな性格だというのだ。
              『A……織細なタイプの美男子。感性に優れ、温厚。ウイットのある会話で周囲を楽しませるが、自分の本音が素直に語れないという複雑な一面を持つAB型。だが、一途に好きな人を思うロマンティストでもある。
              B……長身の美男子。一見、とつつきにくいタイプ。親しい人にわざと口が悪く、悪態をついてみせるが、本心は優しく、正義感が強い。A型。
              C……がっしりタイプのさわやかスポーツマン。見たままの性格でわかりやすいタイプ。純粋でお人好し。やや子供っぽいところもあるO型。
              D…"貴公子風美少年。物事をつねに客観的に見て、するどい分析力を持つ知性派。理想が高く、妥協を許さない自己愛の強いタイプ。B型』
              (なんか、四人ともどこかで実際会ったようなタイプだな)
              と、姫乃は思った。
              すると、こんな指示が画面に出た。
              『それぞれの男性に、貴女が思い浮かぶ名前をつけてください』
              (名前?)
              そのとき姫乃には四人の名前が浮かんだ。
              Aは『細』、Bは『颯」、Cは『豪』、Dは『蛍」。
              だが、すぐにそれを姫乃は否定した。
              (やだやだ、選んだ相手と『人生の墓場に生き埋め』なんていやだもん!)
              ピィ━っ!
              と、そのとき、いきなり画面が真っ暗になった。
              (あれ?またあたし何かいけないことした?)
              と思った瞬間、
              「あらら、どうしてえ?画面消えちゃった!」
              と、隣の席の弥生も叫んだ。
              「え、弥生のパソコンも?」
              「え、姫乃も?」
              と、同時に周りからもどよめく声が次々にした。
              「なんか、店のパソコン全部が消えたみたいよ」
              「うそお」
              すると、店内放送が流れた。
              「お客様にご案内いたします。ただいまホストコンピューターの電源がダウンしてしまいました。至急復旧作業をはじめておりますので、回復までしばらくお待ちください」
              店内はにわかに騒々しくなった。
              「なーんだ、悔しいなあ。今、ちらっとウエディングベルが鳴るシーンが見られそうだったのに。やだ、もうちよっとっていう時に……ああ、残念」
              弥生は実に悔しそうな声を上げた。
              「えー?弥生、もうそんなとこまで進んでたの?」
              「うん、すごくうまくいってたのに」
              「相手はどんなタイプの男性だったの?名前はなんてつけたの?」
              「ま?それは……内緒」
              弥生はぽっと頰を赤らめた。
              (空想好きの弥生のことだ。好きなタイプの男性の名前を選んで入力したんだろうな。ということは『淡雪タウン・いい男リスト』ってこと?……)
              姫乃は少し自己嫌悪に陥った。
              きっき、自分が発想したことと同じことだったら、と気がついたからだ。
              深く考えるのはよそう)
              お店からはサービスですといって、オレンジジュースとコーラが無料で客に配られた。
              「結構時間かかってるね」
              「蛍、奮闘してるのかな」
              「ねえ、様子見にいこうよ」
              「え?」
              「姫乃はバイトしてたんだから、オフィスに行っても大丈夫でしょ。陣中見舞」
              「そうね。心配だよね」


              IP属地:广东37楼2019-08-26 10:33
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                オフィスに上がってみると、そこには蛍が一人、コンピュー夕ーに向かってひたすらキーを打ち続けていた。
                真剣な眼差し。
                声をかけてはいけないような、緊迫感がみなぎっていた。
                額に汗して、そこにはらりとかかる前髪をときおりかき上げるようにしては、ため息。
                しばらく画面に見いっては、またキーボードを激しく打ち続ける。
                その繰り返しが何度もずっと続いていた。
                蛍を取り巻く空気はバリヤーが張られ、とても人を寄せつけるものではなかった。
                (ここは、黙って退散したほうがいいのかな)
                姫乃は、深く考えもしないでオフィスにまで上がってきた自分の行動を後悔した。
                だが、そのとき姫乃たちの気配に気がついたのか、蛍はふと手を止めた。
                顔はこわばったまま、一言こう言った。
                「なおったよ」
                蛍は手でOKマークを作った。そのときの表情は、安堵の、余裕の笑顔に戻っていた。
                (よかった)
                ピンチを切り抜けてほっとしている蛍を見て、姫乃まで気持ちがジンとなった。
                「もう、大丈夫、君たち下に戻ったら続きができるから」
                「最初から、やらなくても?」
                と、弥生が聞いた。
                「データは消えてないから」
                「やった!」
                “太好了”
                弥生は喜んだ。
                弥生のウェディングベルまであと一歩、はキープされてたのだ。
                「あのお」
                「何?」
                「聞いてもいいかなあ。原因……」
                蛍の表情は再び硬くなった。
                「ソフトに不具合が生じてね。テスト段階では万全だったんだけど、いざ本番となると、こういうアクシデントがおこるんだな。勉強になったよ」
                「でも、それを、短時間でなおしたんだからすごいと思う」
                「ありがとう、姫乃」
                蛍はまた笑顔になった。
                「で、ゲームはうまく進んだ?」
                「それは……これからゆっくり頑張ります」


                IP属地:广东38楼2019-08-26 10:33
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                  2025-05-21 20:55:02
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                  一階の店に戻ると、何事もなかったように、人々はまたパソコンに夢中になっていた。
                  「あ、きれいな雪の結晶……」
                  席に戻ると、姫乃のパソコンのモニターには、雪の結晶をモチーフにしたスクリーンセーバーが流れていた。
                  雪の結晶は、淡雪タウンのシンボルマーク。
                  このスクリーンセーバーのソフトも、蛍が手がけたプログラムなのだ。
                  「ねえ、弥生。ゲームの進み具合見せてよ」
                  「や、やだ。姫乃、見たら笑うもの」
                  「いいじゃない、たかがゲームなんだから」
                  姫乃は、そう言って、勝手に弥生のパソコンのキーをポンと叩いた。
                  いずれかのキーを押せば、スクリーンセーバーが解除になって、作業画面に戻ることくらいは、姫乃も知っている。
                  すると、弥生のモニター画面には、教会の絵が現われた。
                  まさに、これから結婚式がはじまり、ウェディングベルが鳴ろうというシーン。
                  そして、教会の扉が開くと、そこから出てきたのは、髪の長い花嫁姿の女の子と、少年のような花婿。
                  「なんか、このキャラ、弥生に似てるね」
                  花嫁のキャラは眼鏡までかけていた。とんぼの眼のように眼鏡のまるい形までよく似ていた。
                  「最初の性格診断に合わせて、自分に似たキャラが選べるのよ」
                  「ふーん、そうなんだ」
                  「あれ、姫乃たら、まだそこまでも行ってなかったの?」
                  「あはは、ちょっと、最初つまずいたから」
                  でも、少年のような花婿のキャラは、どこかで見たことがあるけど、誰なんだろう、と姫乃は首をかしげた。
                  「わからない?」
                  「全然」
                  「なら、よかった」
                  自分の画面には出てこなかったキャラビ。
                  (そうか、相性判断で出てくるキャラも、みんなそれぞれ違うんだ)
                  するとさらに、画面には大きな相合傘が現われ、そこには『弥生・姫乃』と書かれていた。
                  「やだ!」
                  と、弥生は頰を赤らめた。
                  「何?弥生ったら、あたしの名前を使ったの?」
                  「だって、このキャラ、見た目も、性格も姫乃に似てたんだもん。だから姫乃って名前つけちやったの」
                  「まったくもう。あたしは男じゃないっていうの。そりゃまあ、似てるっていわれれば、そうだけど……」
                  「でも、ゴールまで行ったんだからいいじゃない」
                  だが、画面の様子がなんかおかしくなった。
                  「あれ、変。相合傘が破けたハートの形になったよ」
                  「ああ、教会が遠ざかって、ああ、画面が墓場になっちゃった」
                  弥生と名付けられた花嫁と姫乃と名付けられた花婿のキャラは、ずぶんと墓場に掘られた穴の中に吸い込まれるように入っていった。
                  “GAME OVER”
                  ゲームは終了。クリアならず。
                  「どんでん返しがおるなんて......。わたしは姫乃とは相性最高だと思ったんだけどなあ」
                  「このキャラね。似てるけど、あたしじゃないのよ。他人の空似」
                  でも、確かに自分に似ていたキャラだけに、姫乃の気持ちは複雑だった
                  「教会の裏には人生の墓場があるんだ。深いでしょ」
                  振り返ると、そこに蛍の姿があった。
                  「そう簡単にはこのゲームクリアできないんだ。クリアかなと思ったらドンでん返しがあるんだ。ても、どう? 面白いでしょ」
                  「はい、やみつきになりそう」
                  「それはよかった。じゃあ、特別に弥生くんにはこれをあげよう」
                  そう言って、蛍が差し出したのはマスコット人形のついた携帯ストラップだった。
                  「あ、これ蛍先生のキャラだっていうやつですか?」
                  「うん。本当は高得点でクリアした人にしか配らないけど、さっき激励にきてくれたお礼」
                  「うれしい!ありがとうございます」
                  「そのストラップ。俺だと思って大切にしてね」
                  「はい」
                  もう、弥生の眼鏡の奥の眼は完璧にハートになっている
                  「あ、姫乃くん。君にもあげたいけど、それは、結果をみてからにしよう」
                  だが、姫乃のパソコンの画面はスクリーンセーバーがかかったままになっていた。
                  「あ、弥生の方に夢中になって忘れてた」
                  慌ててキーを姫乃が押すと、やがて画面が現われた。
                  そこにはシンプルに一言『TIME OUT』と。
                  制限時間をとっくに超えていたのだ。
                  「ゲームでタイムアウトなんて……初めて。自信あったんだけどな」
                  「これでゲームまで嫌いにならないでくれよ。はい、俺の携帯ストラップ」
                  蛍はへこんでいる姫乃の肩をたたいて励ました。マスコットつき携帯ストラップとともに。
                  「ゲームの才能はあるんだから。君みたいなゲームファンがいるから、俺たちプログラマーは頑張れるんだ」
                  姫乃の脳裏には、コンピュー夕ーを復旧させようと頑張っていた蛍の姿が思い出された。
                  「蛍、あたし、コンピューターも好きになるから大丈夫、努力するから」
                  「うれしいね」
                  蛍は笑顔を残して、オフィスの方に上がっていった。
                  姫乃のてのひらには、蛍のマスコット人形が微笑んでいた。
                  (蛍って、こういう形で優しさを表現するんだよね)
                  ちょっとキザ。でも、自分の世界、自分の美学を持っている。
                  だから、ゲームの世界なんていう、バーチャルな世界も表現できるんだろう。
                  「さあ、そろそろ帰ろうか」
                  「姫乃、もう一ラウンドつきあってよ」
                  「まだ、やるの。待ってるお客さんもいるみたいだよ」
                  「蛍先生が、ここは奥の席だから、特別って言ってくれたじゃな」
                  「だけど……」
                  「ね、もう一回だけ。お願い。今度は、迷わないわ、相手の名前〃蛍"って入力してやってみるのよ。今度こそウエディングべル鳴らすんだから!」
                  と真剣な眼差しになる弥生であった。
                  (まったく、おめでたいな!でもそれが弥生のいいとこだけど。まあ、しかたない。気が済むまで付き合うとするか)
                  あきらめて、とことん弥生に付き合う覚悟ができた姫乃だった。


                  IP属地:广东39楼2019-08-26 10:35
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                    第七章:小さな恋物語
                    「わあ、きれいなお花のお星さま」
                    今日初めて気球に乗った新は、緑の空に浮かぶ、花模様のお星さまがチカチカと点滅しているのを見て、ぽっかり〜んと口を開けた。
                    さっきまで、不安でたまらなかったけれど、空間に浮かぶ気球はまるでゆりかごみたいに気持ちょく、周りの景色があまりにもきれいなので、今はもうすっかり万年や初がいなくてももう大丈夫という気持ちになった。


                    IP属地:广东40楼2019-08-27 10:36
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                      「え? 一人で乗るの?」
                      「そうだよ、新、この気球は一人乗りなんだ」
                      「一人じゃやだ。万年と一緒に乗る」
                      「二人じゃ乗れないんだよ」
                      乗り場に並んだときは、新は連れてきてくれた兄貴格の万年の手をぎかっと握って、今にもべそをかきそうな顔になっていた。
                      無理もない。
                      また新は幼い子供だ。
                      泣き虫で弱虫。
                      ここに来るときだって万年に手を引かれていないと心細かったぐらいだから。
                      「でも、新、おまえ、気球に乗りたくて来たんだろ」
                      「うん、そうだけど」
                      「だったら一人で乗ろうな」
                      「でも」
                      「初は一人で乗れるよな」
                      「うん」
                      新よりちよっとお兄ちゃんの初は、負けん気の強そうな顔で、一人で乗ると胸を張った。
                      「だって、ほら新より小さい子だって、見てみな、一人で乗ってるだろう」
                      初が指差す列の前方には、小さな女の子が一人で気球に乗り込んでいた。
                      ピンクの水玉のワンピースを着た髪の毛の長い女の子だった。
                      ちらりと振り向いたときの顔を見たとき、その可愛さに、幼い新の心臓はドキンと嗚った。
                      だが、女の子の方はそんな新の心の動きもまったく関知しないまま、ワンピースの色に合わせたような、ピンク色の気球に乗って、空高くへと上昇していった。
                      「な、一人で乗れるよな」
                      「うん、万年、僕、一人で乗るよ」
                      やっと、新はうなずいた。
                      いくら泣き虫でも、女の子より勇気がないのではかっこ悪いと、新も思ったのだろう。
                      「おやおや、小僧たちじゃないか?」
                      後方で聞き慣れた声がした。
                      振り返ると、丸顔に丸眼鏡をかけた四等身の男がいた
                      「あ、姫乃ちゃんちの運転手の田中!?」
                      いつもは背広にネクタイ、白手袋の田中だが、今日はポロシャツにGパンというラフなスタイルだ。
                      だが、ポロシャツをGパンの中に入れて、太鼓腹のウェストを革のベルトで締めているところがなんともダサイのだけど……
                      万年、初、新の三人組は、淡雪家の執事兼運転手の田中とは顔見知りだった。
                      彼等三人組は、姫乃のいわば“弟分的存在”の友達なのだ。
                      姫乃は特技が空手ということもあって、やんちゃざかりの年下の男の子とも妙に気があってしまうのだ。
                      姫乃が住むお城のような大邸宅に遊びにいくのも三人組の楽しみの一つ
                      淡雪家には広い庭があり、フランス式庭園や純日本風庭園のほかに手付かずのジャングルのような森があったり、謎にみちた雰囲気を醸し出しているミステリーゾーンもある。
                      三人組はそういうワイルドな場所で冒険ごっこするのが大好きなのだ。
                      実はこのAWAYUKIランドも、淡雪家のジャングルやミステリーゾーンをヒントに、商業用に新たに作られたテーマパークなのである。
                      本当は敷地内にあるジャングルをそのまま活用しようという計画も当初はあったのだけど、広大な敷地とはいえ、淡雪家のプライバシーが侵害されるという配慮から、ウォーターフロントの埋立地を利用してこのAWAYUKIランドは造られたのだ。
                      「今日は休みなんだ」
                      と、万年が田中に声をかけると、
                      「休暇じゃない。仕事だ、仕事」
                      「仕事で、気球に乗るの?」
                      「うちの奥様、つまり淡雪夏江会長からじきじきに、AWAYUKIランドの乗り物のモニターを命じられたのだ。わははは」
                      と田中は誇らし気に答えた。
                      田中はお仕えしている主人・淡雪夏江の頼みとあらばなんでも喜んで聞く。
                      薄くなった頭髪につけている毛生え薬も、夏江が経営する化粧品会社で目下研究・開発中の育毛剤をモニターとして試しているのだ。
                      だが、田中の頭にはいっこうにその効果が現われては来ない。
                      それを夏江会長は、試作品の失敗だと思っているのだが、本当は別のところに原因がある。
                      それは、田中が淡雪家に忠実に仕え、私情を押し殺しているからだ。
                      長年蓄積したストレスがあまりにも大きくなりすぎているのだ。
                      それは誰も知らない。
                      「モニターってなに?」
                      と初が聞いた。
                      「実際に乗ってみて、乗り心地などの感想や、もっとこうしたらいい、などという改良点を、レポートにまとめて報告する仕事だよ」
                      「じゃあ、仕事だからタダで乗れるんだ」
                      「ははは、まあな、仕事だからな。わはははは」
                      「いいなあ、でも、俺たちだって、お小遣いためてきたんだよ。えらいでしょ」
                      と初が自慢気に田中に答えた。


                      IP属地:广东41楼2019-08-27 10:36
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                        ここは空にあるお花畑。
                        虹色の気球に乗って、空中散歩が楽しめる。
                        見渡す空に、青、緑、紫、オレンジ、黄色、赤……と、いくつものたくさんの気球が、ぷかぷかと浮いて縦横無尽に行き交っている。
                        この空の花畑は『バーチャルフラワースペース」といって、淡雪タウンがほこるテーマパーク・AWAYUKIランドの人気スポットの一つ。
                        実は巨大なドームに設置された”植物の宇宙”で、バーチャルというだけあって、視覚こ映る遥かなる花の星空は、特殊な眼鏡をかけて見える仮想世界なのだ。
                        だから、気球に乗り込むときには、頭がすっぽり隠れるようなヘルメットつきデク眼鏡をかけるのだ。
                        緑の宇宙が果てしなく奥行きのあるように見える。
                        花模様の星が流れ星のように飛んで来ては、あたかも手でつかめるように見える。
                        それらは錯覚。
                        特殊な眼鏡からのぞくバーチャルな世界なのだ。
                        そして空中に浮かぶ気球もドームの天井からワイヤーで吊されて、コンピューターのプログラムにしたがって動いている。
                        小さい子供でも安心して一人で乗れるのも、コンピューターで正確に制御されているからだ。
                        新を乗せた気球は若草色をしている。それは、まるで緑の空に溶け込むみたいにきれいな色をしていた。
                        「おーい、新」
                        「あ、初」
                        声がするので振り向くと、そこには初を乗せた気球が接近してきていた。
                        初は、もっとか浓い鮮やかな、限りなく青に近い海の色をしたグリーンの気球に乗っていた。
                        「どう? 一人で平気だろ?」
                        「うん。楽しい」
                        「それはよかった」
                        「ねえ、万年は?どこ?」
                        「万年?ああ、あいつはジェット・サンダーに乗りにいっちゃったんだ」
                        「え?気球に乗ってないの?」
                        「実は新が気球に乗ったあとで、あの、運転手の田中と万年の交渉が成立してね」
                        ジェット・サンダーは『バーチャルフラワースペース』のあるドームの外周に網羅されたチューブ状の軌道で、ここを超高速のジェット・コースターが走り抜けるのだ。
                        つまり相当エキサイティングな乗り物なのである。
                        大人でも高所恐怖症や閉所恐怖症、高速恐怖症なら苦手な乗り物だ。
                        実は、運転手の田中はジエット・サンダーには乗りたくないと思っていたので、内心乗らずにモニターする方法はないものかと思案にくれていた。
                        そんなときに、万年たちに会ったものだから、一番こわいもの知らずのガキ大将ぶりが板についた万年に、「代わりに乗ってほしい」と交渉したのだ。
                        AWAYUKIランドの無料優待券を三枚譲ることを条件に!
                        ごおおおおお!
                        新と初がぷかぷか浮かんでいる気球の近くが、にわかに騒々しくなってきた。
                        と、思ったら次の瞬間、空間の中に虹色のチューブ状の軌道がくっきりと出現し、チカチカと点滅し始めた。
                        ぐおん、ぐおん、ぐおん!!!
                        轟音がだんだん大きくなって来た。
                        ぐおおおおっ!
                        ぎやああああ!
                        「うわあ」
                        「何だ!」
                        新の気球と初の気球が危うくぶつかりそうになるほど揺れた。
                        実はジェット・サンダーの軌道はドー厶の地下や、ドーム内にも突き抜けていて、のどかな緑の花宇宙をもときおり轟音を立てて駆け巡るのだ。
                        そのとき、虹色のチューブを人間を乗せたジェット・コースターが稲妻のように駅け抜けたのが、ほんの一瞬だったけど、幼い新の目にもちゃんと見えたのだった。
                        おそらく、万年も乗っていたのだろう。
                        気球が揺れたのも、ジェット・コースターの轟音による振動で、チューブの周りの空が、思いっきり波打ったからだ。
                        けれども、気球はドー厶の天井から吊されているから、安全上問題はない。
                        むしろ、一見のどかな世界に、異質のびっくりするような現象が起きることが、二の「バーチャルフラワースペース」の計算された面白さでもあるのだ。
                        疾風のごとく駆け抜けたジェット・サンダーを見て、初は自分も乗ってみたいと思った。
                        ものすごいスピードだったけど、チューブの中を走ゐコースターに乗っていゐ人達の表情が、コマ送りのように見えたからだ。
                        それがえらく面白かった。
                        髪の毛が逆立って、目はつり上がり、頰はへこんで、口は叫び声を上げていたのが、はっきりとわかった。
                        というのも、チューブには通過するコースターの残像が映るように設計され、さらにバーチャル眼鏡を通して見ると残像がより鮮明になるからだ。
                        たしかにこわそうだけど、初は子供でも好奇心が旺盛だから、こわいものに引かれてしまうのだ。
                        「う、う、う」
                        だが、ふと見ると、新の方は今の衝撃的な振動と、通過したジェット・サンダーの轟音によほどびっくりしたらしく、また、べそをかき出していた。
                        「おい、新、大丈夫?」
                        「だめ、やつぱり一人じゃ乗れないよ」
                        「こわがらずに、楽しめよ。絶対安全なんだからさ。万年なんかジェット・サンダーに乗ってるんだよ」
                        がくん!
                        ずーん
                        だが、初は新を慰めてやろうにも、たがいの気球と気球は引き離されるように、動き出した。
                        そして遠ざかっていったのだった。
                        「初……」
                        新は遠ざかる初の気球が次第に小さくなって行くのを見て、ことさらにまた、心細くなった。
                        でも、気球の飛行時間は四十五分もある。
                        まだ乗って十分もたってない。
                        これからの三十分以上をどうやって、耐えたらいいんだろう。
                        「やっほー」
                        そのとき新の気球の前をピンク色の気球が横切っていった。
                        (あ、あの子は……」)
                        新の方に手を振った女の子は、ビンクの水玉ワンピースを着た、あの可愛い子だった。
                        今は、飛行隊員のようなヘルメットと水中にでももぐるような眼鏡をかけているから、表情はあまりわからないけれど、新にむかって投げられた口元の微笑みだけでも、十分にキュー卜だった。
                        「やっほー」
                        新も女の子に向かって手を振った。
                        ぐんっ!
                        次の瞬間、新の乗っている若草色の気球と女の子の乗ったピンクの気球は接近して並行して動き出した。
                        これは『ランデブータイム』といって、空中に浮かんでいる気球が二つずつカップルになる仕掛けなのだ。
                        「こんにちは」
                        ピンクの女の子が声をかけてきた。
                        「あなた、お名前は?」
                        にこっと微笑まれて新はドギマギ、頰が紅潮した。
                        「新……」
                        「新ちゃんか。可愛い名前だね。あたしは麻衣よ。よろしくね」
                        「よろしく」
                        「新ちゃんは一人で来たの?」
                        “新酱你是一个人来的吗?”
                        に乗ってるんだ。麻衣ちゃんは?」
                        「あたしはパパとママと来たの。パパとママは今、『アスレティック・ブラネット』で汗を流してるわ」
                        「バーチャルフラワースペース」がある巨大ドームの隣にはハイテク装備のアスレティッククラブがあり、子供たちが気球などに乗って遊ぶ間に、大人たちはフィットネスで汗を流すこともできる。
                        AWAYUKIランドでは入場者にみな、発信装置のついたバッジを装着させ、居場所が常にわかるように管理しているので、小さな子供が親と離れて一人で遊んでも、全く心配はないのだ。
                        「麻衣ちゃんはよく、ここに遊びに来るの?」
                        「うん、毎週日曜日は、気球に乗ってお散歩するんだよ。新ちゃんは?」
                        「僕は今日、初めてなんだ」
                        麻衣はよくここに来て、一人で遊んでるのだろうか?寂しがることなど微塵もなく、花畑の宇宙の気球飛行を楽しんでいる様子だった。
                        「ふふふ、新ちゃん、ちょっと一人で心細いんでしょ」
                        「そんなことないよ」
                        「やせ我慢しないの。でも、麻衣ちゃんがついてるから大丈夫だよ」
                        麻衣は明らかに新よりも幼いのに、おねえさんぶった口調で新を勇気づけた。
                        麻衣が横にいて一緒に飛んでくれるおかげで、新の気分もずいぶんとやわらいだ。
                        (麻衣ちゃんと二人なら、このままでいいや)
                        そう思うようになっていた。


                        IP属地:广东42楼2019-08-27 10:37
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                          「おや、小僧じゃないか」
                          「あ、赤メガネモンキー?」
                          初か乗ってる鮮やかな緑色の気球には、赤い気球が並んだ。
                          メガネザルのょうに見えたのは、田中だった。
                          「なんだ田中かあ」
                          せっかくのランデブー飛行に、隣に可愛い女の子がくればぃぃな、と目論んでいた初の期待は見事に裏切られた。
                            「私で悪かったね。がっかりしてるんだろ、小僧?」
                            「田中だって、きれいなお姉さんとかの気球と並びたかったんじやないの」
                            「めっそうもない。私は今、仕事中だから、そんな不謹慎なことは考えない」
                            「ねえ、田中って、姫乃お姉ちゃんちのおばちゃんが初恋の人で、今でも思い続けてるんだって?」
                            田中の顔は一気に赤面した。
                          気球と同じくらい赤くなって、ますますまっ赤なメガネザルになった。
                          「そ、そのような話を誰が?」
                          「弥生ちゃん」
                          「ああ、あの姫乃様のお友達の……」
                          弥生はどこからネタもとを仕入れてくるかはわからないのだけど、情報通なのだ。
                          初が弥生から聞いた話では、姫乃の義母となった夏江を、田中はなんと幼稚園のころから慕っていたという。
                          だが、どんなに憧れたところで、夏江の眼中には田中の存在などなかった。
                          田中は幼稚園時代からずっと夏江の“使いっぱ”として生きてきた。
                          そして、運転免許を取ったときから運転手となり、今日に至るのだ。
                          夏江に思いが届くこともなく、夏江が最初に結婚したときも、姫乃の父と再婚したときも、枕を涙で濡らしながらも、その感情はぐっと抑えて、夏江にお仕えしてきたのだった。
                          (田中って、健気なんだよな。話聞くと泣けてくるよな)
                          幼い初であっても、好きな人に思いが受け入れられないといぅ辛さは、理解できるのであった。
                          (もし、姫乃お姉ちやんに無視されたら、俺悲しいもんな)
                          初は、もし大人になったとき誰か別の男性と結婚している姫乃の家に雇われて、運転手として命令されて過ごすことを想像すると、胸がしめつけられ、目頭が痛くなりそぅだった。
                          (みんな、なんだかんだ言って姫乃お姉ちやんが好きだからな)
                          初は幼心にわかっていた。
                          姫乃の家に遊びにいくのが楽しいのは、広い未開の庭の奥を探検できるからじやない。
                          もちろんそれも楽しいけれど、万年も自分よりほんの少し幼い新も、姫乃を包む空気に触れるのが楽しくワクワクするのだ。
                          けれども、憎まれ口をたたく万年でも、泣きべそをかく弱虫新でも,初にとっては大切な友達だ。
                          姫乃をめぐって男同士が争うなんてことは避けたいなと思うのだった。
                          (でも、心配ないよ。俺が姫乃お姉ちゃんくらい大きくなったころには、姫乃はもう”おばさん”になっているだろうし、俺は俺で今の姫乃お姉ちゃんのような彼女をみつけるんだ)
                          そう自分を納得させると、悲しい気持ちも薄まっていくのだった。
                          「おや、小僧、泣いてるのか」
                          眼鏡をかけているというのに、頰を伝わった一筋の涙が光ったのだろうか。
                          田中は、急に物思いにふけって悲しそうな顔をした初の気持ちを見逃さなかった。
                          「みんな、誰でも幸せになれるよね」
                          と、初が言うと、田中は深くひと呼吸おいて、こう言った。
                          「もちろん。私だって、淡雪家にお仕えすることで、こんなに幸せなんだから」
                          (無理してるんだ。でも、田中っていいやつかも)
                          初は可愛い女の子とはランデブ一できなかったけれど、田中と一緒にふわふわ飛ぶのも悪くはないと思ったのだ。


                          IP属地:广东43楼2019-08-28 13:42
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                            ぐおんぐおんぐおんぐおんんんんんんんん!
                            ようやく、万年を乗せたジェット・サンダーは起点のステーションにもどって、止まった。
                            「すごすぎ!」
                            感想はその一言に尽きた。
                            まだ目が回っている。
                            立ち上がろうとしたが、足元がよろけて、おぼつかない。
                            一体この巨大ドームの外と中と地下を何周したのだろう。
                            猛スピードでチューブを駆け抜け、何度も何度も遠心力で飛ばされそうになる力を振り切りながら走る強烈さ。
                            けれどもそれは身体が慣れてくると、だんだん快感にも変わってくるのだった。
                            「いかがでございましたか?田中様」
                            係員の古川という女性が万年にすり寄ってきた。
                            黒縁の眼鏡をかけ、ひっつめ髪にしたさも仕事熱心そうなタイプ。
                            年のころは二十二、三だろうか。
                            (そうだ、俺は田中なんだ)
                            本当なら、このジェット・サンダーには田中が乗ることになっていたのだ。
                            万年はジェット・コースター系が苦手な田中の身代わり。
                            係員の古川は、淡雪家から遣わされた「田中」と名乗る人間が、今日、ジェット・サンダーのモニターにやって来るので失礼がないようにと、上役から連絡を受けていた。
                            ただ、年齢や風貌についての詳しい連絡がなかったのだうつ、「田中です」と告げただけで、いきなVIP扱いとなった万年であった。
                            「お乗りになったご感想は?いかがでした?」
                            「すっごくエキサイトしたよ、それにきれいだった」
                            ドームの屋根に網羅されたチューブからは、ドームの内部がよく見える。
                            地下に潜ったときもそうだった。
                            つまりドームの屋根と床は内側から見ると、緑の空と白い大地に見えるのたけど、マジックフーのようになっていて、外からは中の様斤か透明なガラスを通して見る緑の海のように目に映るのだ。
                            そこにぷかぷか俘かぷ気球は、まるでカラフルなクラゲのようにも見えた。
                            みのスリリングな美しさは、いまだに目を閉じると残像として、まぶたに焼き付いている。
                            花の宇宙というか花の深海のような景色があるから、あのスピードでもこわさをあまり感じなくて済んだ。
                            「では、次のロケットボールの乗り埸にどてうぞ」
                            「ロケットボール」
                            「あら、ジェット・サンダーは、ほんのウォーミングアップですのよ、田中様。本日のメインテーマは新作のロケットボールの试乗ですから“さあ、こちらにてっぞ」
                            (聞いてないけど、まあいいか、タダで乗れるんだしな)
                            万年は係員の古川の案内に從った。


                            IP属地:广东44楼2019-08-28 13:42
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                              2025-05-21 20:49:02
                              广告
                              「これがロケットボール……」
                              そこにあったのは、ボール状の透明な乗り物だった。
                              「こちらに乗られる埸合は宇宙服を着ていただきます。あちらのロッカールームをお使いください」
                              そういって黒縁眼鏡の古川に促され、万年は銀色の宇宙服に着替えた。
                              宇宙服といっても、ぶかぶかした形ではなく、身体のラインにぴたっと合った、ダイビングのウエットスーツを銀色にしたような格好になった。
                              「こちらにどうぞ、田中様」
                              ロッカールームから出て来ると、そこにはダイナマイトなナイス・バディ女性がセクシーな雰囲気をぷんぷん振りまいて立っていた。
                              「あれ? 古川さんは?」
                              「田中様、わたくし、古川ですわよ。わたくしも宇宙服に着替えさせていただきました」
                              そこには、万年と同じように宇宙服姿になった、係員の女性がいた。
                              (うわっ、このお姉さん、いい女だったんだ!)
                              黒縁の眼鏡をとった古川は、顔も意外や意外、美人だった。
                              それが、誰かに似ているのだけど、とっさには思い出せない万年だった。
                              (ああ、おっかねえ姉ちゃんだ)
                              万年の頭には、淡雪家の令嬢、わがまま高びーな繭根の顔が浮かんだ。
                              繭根のようなゴージャスなオーラはないにしろ、目鼻立ちが整ってはっきりしているところが、同じ系統の顔なのだ。
                              それでもって、繭根よりはちょいと〃おばさん〃が入っていた。
                              「ヘルメットをかぶってください。かぶっても会話できますから」
                              ヘルメットをかぶった万年は、古川と一緒に球形の透明なロケットに乗り込んだ。
                              「このロケット二人乗りなんです。バーチャルフラワースペースの気球は一人乗りですけど、こちらは遊園地の観覧車のように、カップルで楽しめるエキサイティングな乗り物として、開発いたしました。本日は田中様はお一人でいらっしゃいましたので、わたくしがご一緒させていただきます」
                              「よろしく」
                              万年はそっけない返事をした。
                              ナイスバディのお姉さんと密室に乗り込むのを、にやけた顔して喜んではいけない、と思ったからだ。
                              (たと、え美人でも、おっかねえ姉ちゃん系は苦手だからな。こういう乗り物だったら、姫乃姉ちゃんと乗りたいな。ぎゃーぎゃー騒いで、ノリよさそうだもん。でも、古川さんは、気取った真面目なまま乗ってるんだろうな)
                              ロケットの内部には椅子が二つあった。それぞれの椅子に輪になった軌道がついていて、ロケット内でその軌道は斜めに交差したりするので、椅子も軌道に沿って自在に動くようになっている。
                              おそらく、ロケットが発車すると恐ろしい勢いで軌道もロケット内で回転して、椅子にすわった人間もくるくる動くのだろう。
                              「動き出した、めちゃくちゃこわくないっすか?」
                              「大丈夫でございます」
                              身体は宇宙服に身を包み、ヘルメットをかぶり、安全ベルトで椅子にがんじがらめにされているので絶対安全。何かあってもびっくりしないで、なりゆきに身を任せてほしい、と古川は説明した。
                              「そねでは、スタートします。よろしいですね、田中様」
                              「え?」
                              「田中様」
                              「は、はいOKです」
                              「田中様って、淡雪様のご親戚のおばっちゃまですか?」
                              「え?え、ま、まあ、そ、そんなもんです」
                              (そうか、俺が淡雪一族の金持ちのおぼっちゃまたと思って、いろいろ気をつかってくれてるんだ。あわよくば玉の輿を狙ってたり? で、俺みたいなガキでも、大ヨイショなんだ)
                              その魂胆は、まだ子供の万年にも、十分伝わる気迫があったのだ。
                              ブ!
                              ブザーがなって、ロケットが軽く回転を始めた。
                              スピンはだんだん早くなっていって、洗濯機の脱水機にかけられたような回転になった。
                              「わわわわわわ--------------------」
                              万年は自分の口が、カエルのように左右に引っぱられるのを感じた。
                              ごわしゅわわわわんわんわんん、ポーン!!!!
                              一瞬気を失いそうになるほどの衝撃とともに、ロケット自体が、すごい力で飛ばされるのがわかった。
                              発射したのだ。
                              「あわわわわわわわ」
                              カプセルの中では、万年の体が古川の体の上に重なったり離れたり、並んだり。そのポジションが恐ろしく早いスピードで変化した。
                              でも、一緒に同乗しているのが女性で、しかもナイス・ハディだなんてことを考える余裕など、まったくなかった。
                              一体何が起こってるのか、まったく把握できない。それがロケットボールが動き出したときの感想だった。


                              IP属地:广东45楼2019-08-28 13:42
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