第六章:ホームぺージdeゲーム
「あちゃあ、またフリーズしちゃった!え、どうして?どうして?あたしが何悪いことしたっていうのよ、おいおいおい、ねえ、なんとか反応して!」
「姫乃。何パソコンに当たってるの?」
「あ、弥生。助けてよ、なんかフりースしちゃって、マウスのポインタすら動かないの」
「どれどれ。かしてよ、うーんと、……あら本当だ,これ、だめ、強制終了するしかないわね」
「やだ、強制終了したら今、入力したデーク消えちゃうんでしょ?」
「保存してある分は、大丈夫よ」
「それが……保存してないんだってば」
「え—!?それはだめよぉ。こまめに保存しろって、最初に習ったじゃない」
「んだからね。そろそろ保存しなくちゃって思ってた矢先だったの。そしたらさ、画面が動かなくなっちゃって」
「そりゃあ、自業自得よ。ま、諦めるのね」
締めろと言われても、すぐには諦めきれない姫乃だった。
悪戦苦闘して、入力したデータ。その苦労も無駄に終わる。
たから、パソコンて、嫌い。
淡雪女学院では、パソコンは必修科目になっている。
世の中のIT化をいちはやく教育現場に導入したので、初等部の児童だって、もっと幼い幼児部の園児でも、パソコンを扱い慣れているという評判かある。
高等部の生徒のうち半数以上は中等部からの内部進学者で、彼女たちは高校生になった時点でもうパソコンをすっかりマスターしているのだ。
けれども、姫乃や弥生のように高等部から学院に入学した場合、パソコンに不慣れな生徒も多い。そこで、高等部では放課後に外部進学者の一年生を対象としたパソコン授業が行われている。
たが、正直言って姫乃は苦手。
理数系の機械とかハイテク系のものが弱いのだ。
パソコンの授業を受ける度に、トラブって、親友の弥生に助けてもらっている。
「じゃあ、もう仕方ないんで強制終了しちゃうわよ。コマンドはえーっと……このキーと…」
「あ、弥生、ちょっと待って!」
姫乃は弥生を制した。そして、ノートと鉛筆を取り出して、画面に入力していたデータを写し始めた。
(なにもバソコンを使わなくても、紙と鉛筆さえあれば何だって書けるのよ。お父さんだって、そうしてたし。最初っから紙に書けば、こういう二度手間もないわけだし)
父親の薫は、かつて一世を風靡した少女小説家だった。
父は母が亡くなり、姫乃がもの心ついた頃にはもう小説は書かなくなっていたとはいうもの、原稿用紙にひたすらペンを走らせていた頃の父の姿の記憶は、おぼろげながら残っている。
たとえ昔からパソコンがあったとしても、本質的にアナログ人間の父は、頑なに拒否してるだろう。
「君たち何か、トラブってるのかな」
教室を見回っていた、インストラクターの蛍が姫乃たちに声をかけた。
さらさらと艶のある前髪をかき上げると、輝くような眼差し。
ラベンダーブルーのシャツにレモンイエローのネクタイがよく似合う上品で、そこはかとない知的な雰囲気を漂わしている美少年の姿がそこにあった。
「あ、蛍先生。淡雪さんのパソコン、フリーズしちゃって。これ、強制終了するしかないですよね」
「どれどれ?」
「蛍くん、何とか助けてよ」
姫乃はノートにータを写す手を止めた。
「ウオッホン。淡雪さん、ここは学校ですから、一応先生と呼んでください』
蛍は咳払いをした。
「あ、ごめんなさい、蛍先生」
とはいうものの、蛍を『先生』と呼ぶのもなんだか違和感があるし、蛍に『淡雪さん』と苗字で呼ばれるのも違和感がある姫乃であった。