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レインが城主を务める、コートクレアス城の中庭――
一定の间隔を置いて设けられている四角い花坛の间を、ユーリは弾むような足取りで散歩していた。
ここへ来てから十日以上が経(た)っていたが、ユーリは违和感なく、城内に溶け込んでいた。
というのも、ここの骑士达はレインと同じく佣兵(ようへい)上がりが多く、坚苦しいのが苦手なユーリと似たような性格の者がほとんどで、驯染(なじ)みやすかったからだ。
まあ、セノアのような难仪(なんぎ)な副官もいるにはいる。だがユーリは、残るもう一人の副官レニの下につけられたので、直接彼女から被害を受けることはない。
レニも大変好意的だし、ユーリとしては特に文句もなかった。
――レインが寝てばかりいることを除(のぞ)いては。
そう、あのレインは帰ってくるなり自室に闭じこもり、めったに外へ出てこないのだ。たまに颜を见せたかと思うと、食事をとるか酒を饮むかのどちらかで、见ていて腹が立つ。
今はそんな时ではないでしょっ、と思うのに。おかしな话だが、ユーリはレインがザーマインに対してなんの手も打たないことにイライラしていた。
これについてはセノアも同じ考えらしく、彼を见る目が日に日に愤(いきどお)りの色を増している。そのうちまた、豪快に切れるかもしれない。
ただ意外なのは、セノアは别として、ここの骑士达はみなレインを信頼しているらしいことだ。人気もある。
今回の戦を避けたレインの判断にしても、「それでよかった」と賛同する者がほとんどだった。元|佣兵(ようへい)がほとんどを占めるここの骑士达は、胜てない戦(いくさ)は避けるのが当然という意识があるのかもしれない。ユーリもそれは、わからないではないのだが……
「ったく、人に気を揉(も)ませる奴よねえ」
独りごちたユーリは、颜をしかめて足下の石ころを蹴っ飞ばした。
「うん?」
どこからか歓声が闻こえた。
そちらの方へ目をやると、城壁のすぐ侧(そば)に、骑士达の集団が见えた。どうやら円形になって、何事かやっているようである。
好奇心の强いユーリは、すかさずそちらへ足を向けた。
「あっ……レニ队长」
人の轮の中心には、通常よりやや短めの、二振りの剣を手にしたレニの姿があった。部下の骑士と向き合っている。
どうやら剣の训练中であるらしい。
「へえ。二刀流なんだ、レニ队长」
少し感心して、人垣の外から见物する。
レニの相手をしている部下は、肩で息をしていて、なにか苦しそうだった。信じがたいが、どうもレニが押しているようだ。
ジリッ。
意を决したように铠(よろい)姿の骑士が动く。身体を低くしてレニに近づき、しばしためらうようにレニを観察している。だが、レニはぼうっと立っているだけだ。
いける、と思ったのかどうか、その骑士はなかなか侮(あなど)れない速さで手にした剣をレニの首筋に叩きつけた。
キィィン!
澄(す)んだ金属音。
必杀の一撃は、レニの剣があっさり止めていた。そしてもう一本の剣は、ピタリと部下の喉元に突きつけられている。
うわっ、今の、见えなかったじゃない! この人、强かったんだぁ……
ユーリはびっくりして、レニをかなり见直した。ただの温厚な副官だと思っていたが、ちゃんと実力もあったようだ。
「よし、これで一巡したね。もうお昼だし、今日はここまでにしとくよ。では、解散っ」
レニが、短い金髪のわずかな乱れを直しつつ、号令する。
「うぃ~すっ」
いかにも佣兵(ようへい)くさく唱和(しょうわ)し、元|佣兵(ようへい)达はたちまち散っていった。