2/182
目覚め編
第2話 目が覚めたら悪役令嬢でした~sideクラリス~
目を覚ましたら、くすんだ天井が視界を占めた。
ん?
くすんだ天井? ? 私が住んでいる場所は築一年のアパート。天井は真っ白で綺麗だった筈。
ちょっと待って、ここは何処?
私はベッドから飛び起き、恐る恐る周囲を見回す。汚れた小さな窓とボロボロの木の壁、薄汚れた床。
起き上がって歩いてみると、床がギシギシと音が鳴る。
どう見ても物置部屋だ。いかにも使わなくなった古びた家具や雑貨が乱雑に置かれている。
いやいや、私の部屋はカーテンの色はピンクだったし、ベッドの横にはクマのぬいぐるみが置いてあったはず。
だけど今、目の前にある現実は、立て付けの悪そうな窓から隙間風が入って来る物置部屋。
応接セットも置いてあるけれど、よく見たらソファーの布はすり切れて色褪せ、テーブルも傷だらけ。使わなくなった応接セットを私の部屋に置いてあるだけなのだ。
クロゼットを開けると、ぎぎぎっと音が部屋に響く。
色褪せたワンピースドレスを着ながら私は、現在の自分自身の名前を思い出す。
私の名前は山本穂香……じゃなくて、クラリス=シャーレットだ。
あれ?
クラリス=シャーレットって、どこかで聞いた名前のような? ?
私は前世で亡くなる直前、読もうとしていた小説のことを思い出す。
“運命の愛~平民の少女が王妃になるまで~”という物語。
主人公のミミリア=ボルドールは、平民の少女だったけれど、女神に選ばれた聖女の証である薔薇の痣があった為、男爵家の養女となる。
女神に選ばれた聖女は、民に崇められる存在だから、平民という身分ではあってはならなかったのだ。
男爵家の娘として貴族が通う学びの場、ハーディン学園に入学したミミリアは、そこでアーノルド王子と出会い、恋に落ちる。
アーノルド王子の婚約者であるクラリス=シャーレットはそれを知り、ミミリアに嫌がらせをするようになる。そして虐めがエスカレートした結果、しまいには彼女の命を狙うようになる。
アーノルドは舞踏会の場で、そんなクラリスの悪行を咎め、婚約破棄を言い渡す。
そしてミミリアこそが、真の婚約者であることを宣言するのだ。
一方、アーノルドの異母兄、通称『馬鹿王子』であるエディアルド王子は優秀な異母弟に劣等感を抱いていた。
しかも自分が思いを寄せていたミミリアが、アーノルドと恋仲であることを知り、憎悪を抱くようになる。
そんなクラリスとエディアルドに力を貸すのは、魔族の皇子ディノ。
生来から優れた魔術の能力があったクラリスは、ディノから闇の魔力を与えられ、絶大な力を得る。そして彼女は『黒炎の魔女』の二つ名で呼ばれるようになり、人々から恐れられるようになった。
剣の才覚があったエディアルドには、光を切り裂く黒炎の魔剣を与えられ、『闇黒の勇者』と恐れられるようになった。
黒炎の魔女クラリスと闇黒の勇者エディアルドは、魔物の軍勢を率いて王城に攻め込んだ。そしてクラリスは黒炎を放ち、ミミリアの身体を焼こうとするが、アーノルドが彼女を庇って深手を負ってしまう。
瀕死のアーノルドを見て、エディアルドは魔剣でアーノルドにとどめを刺そうとする。
愛する人を失いそうになる悲しみに、ミミリアの聖女としての力が覚醒。
クラリスが放った黒い炎は、ミミリアが放った聖なる光によって打ち消され、さらに重傷だったアーノルド王子の身体も全快する。
エディアルドは復活したアーノルドに聖剣で心臓を貫かれ絶命した。
二人に闇の力を与えた魔族の皇子、ディノはミミリアが放った聖なる光によって力を失い、エディアルドと同様、アーノルドによって聖剣で心臓を貫かれ絶命した。
クラリスは騎士達に取り囲まれたが、捕らえられる直前、自らの身体を燃やし自害をした。
そしてミミリアとアーノルドは身分の差を超え結ばれたのであった。めでたし、めでたし
全っっ然めでたくない!!
その時になって私はようやく、現世の自分が何者か自覚することになる。
クラリス=シャーレットと言えば、“運命の愛~平民の少女が王妃になるまで~”という小説の中では、黒炎の魔女と呼ばれる悪女だった。
いやいやいや、これは偶然……あの小説のクラリスとは限らない。同姓同名というだけで別人だって可能性もある。
でも現世の記憶を辿れば辿るほど、私はあの小説に登場するクラリス=シャーレットであることを自覚させられる。
家族の名前も一緒だし、住んでいる国はハーディン王国だし。
目覚め編
第2話 目が覚めたら悪役令嬢でした~sideクラリス~
目を覚ましたら、くすんだ天井が視界を占めた。
ん?
くすんだ天井? ? 私が住んでいる場所は築一年のアパート。天井は真っ白で綺麗だった筈。
ちょっと待って、ここは何処?
私はベッドから飛び起き、恐る恐る周囲を見回す。汚れた小さな窓とボロボロの木の壁、薄汚れた床。
起き上がって歩いてみると、床がギシギシと音が鳴る。
どう見ても物置部屋だ。いかにも使わなくなった古びた家具や雑貨が乱雑に置かれている。
いやいや、私の部屋はカーテンの色はピンクだったし、ベッドの横にはクマのぬいぐるみが置いてあったはず。
だけど今、目の前にある現実は、立て付けの悪そうな窓から隙間風が入って来る物置部屋。
応接セットも置いてあるけれど、よく見たらソファーの布はすり切れて色褪せ、テーブルも傷だらけ。使わなくなった応接セットを私の部屋に置いてあるだけなのだ。
クロゼットを開けると、ぎぎぎっと音が部屋に響く。
色褪せたワンピースドレスを着ながら私は、現在の自分自身の名前を思い出す。
私の名前は山本穂香……じゃなくて、クラリス=シャーレットだ。
あれ?
クラリス=シャーレットって、どこかで聞いた名前のような? ?
私は前世で亡くなる直前、読もうとしていた小説のことを思い出す。
“運命の愛~平民の少女が王妃になるまで~”という物語。
主人公のミミリア=ボルドールは、平民の少女だったけれど、女神に選ばれた聖女の証である薔薇の痣があった為、男爵家の養女となる。
女神に選ばれた聖女は、民に崇められる存在だから、平民という身分ではあってはならなかったのだ。
男爵家の娘として貴族が通う学びの場、ハーディン学園に入学したミミリアは、そこでアーノルド王子と出会い、恋に落ちる。
アーノルド王子の婚約者であるクラリス=シャーレットはそれを知り、ミミリアに嫌がらせをするようになる。そして虐めがエスカレートした結果、しまいには彼女の命を狙うようになる。
アーノルドは舞踏会の場で、そんなクラリスの悪行を咎め、婚約破棄を言い渡す。
そしてミミリアこそが、真の婚約者であることを宣言するのだ。
一方、アーノルドの異母兄、通称『馬鹿王子』であるエディアルド王子は優秀な異母弟に劣等感を抱いていた。
しかも自分が思いを寄せていたミミリアが、アーノルドと恋仲であることを知り、憎悪を抱くようになる。
そんなクラリスとエディアルドに力を貸すのは、魔族の皇子ディノ。
生来から優れた魔術の能力があったクラリスは、ディノから闇の魔力を与えられ、絶大な力を得る。そして彼女は『黒炎の魔女』の二つ名で呼ばれるようになり、人々から恐れられるようになった。
剣の才覚があったエディアルドには、光を切り裂く黒炎の魔剣を与えられ、『闇黒の勇者』と恐れられるようになった。
黒炎の魔女クラリスと闇黒の勇者エディアルドは、魔物の軍勢を率いて王城に攻め込んだ。そしてクラリスは黒炎を放ち、ミミリアの身体を焼こうとするが、アーノルドが彼女を庇って深手を負ってしまう。
瀕死のアーノルドを見て、エディアルドは魔剣でアーノルドにとどめを刺そうとする。
愛する人を失いそうになる悲しみに、ミミリアの聖女としての力が覚醒。
クラリスが放った黒い炎は、ミミリアが放った聖なる光によって打ち消され、さらに重傷だったアーノルド王子の身体も全快する。
エディアルドは復活したアーノルドに聖剣で心臓を貫かれ絶命した。
二人に闇の力を与えた魔族の皇子、ディノはミミリアが放った聖なる光によって力を失い、エディアルドと同様、アーノルドによって聖剣で心臓を貫かれ絶命した。
クラリスは騎士達に取り囲まれたが、捕らえられる直前、自らの身体を燃やし自害をした。
そしてミミリアとアーノルドは身分の差を超え結ばれたのであった。めでたし、めでたし
全っっ然めでたくない!!
その時になって私はようやく、現世の自分が何者か自覚することになる。
クラリス=シャーレットと言えば、“運命の愛~平民の少女が王妃になるまで~”という小説の中では、黒炎の魔女と呼ばれる悪女だった。
いやいやいや、これは偶然……あの小説のクラリスとは限らない。同姓同名というだけで別人だって可能性もある。
でも現世の記憶を辿れば辿るほど、私はあの小説に登場するクラリス=シャーレットであることを自覚させられる。
家族の名前も一緒だし、住んでいる国はハーディン王国だし。