かけら23
导语:
これもカケラ紡ぎ候補の没テキストです。
沙都子が、今だに両親が自分を殺そうと思っていたと信じているという説明のようです。
この辺りのエピソードは、本編では入江や大石等のカケラで消化させています。
これまた没の理由はよく覚えていません。
正文:
「ストライーク! !バッターアウト!」
今日の興宮タイタンズのピッチャーはなかなか好調らしい。簡単にランナーを出させてはくれなかった。
「もうじき悟史くんの打順ですねえ。この辺でランナーが出てくれれば、悟史くんがサヨナラで試合を決めるなんて局面にもなりそうですよ。」
「に—に一はここ一番の重要なシーンに特に弱いでございますからねえ。本音を言えば、に—に—の打席の前にホームランが飛び出してほしい気分でしてよ。」
「はははははは、確かに。悟史くんは逆転がかかるとか、そういうシーンではなぜか調子が出ませんからね。普段はもっと打てる分だけに残念です。」
「本当に情けないですこと! 男ならむしろ、普段はダメでもここ一番では負けない!くらいの方が素敵でございますのに。」
「はははははは。でも期待しましょう。実力は十分なんですからね。」
「に—に—!!今から硬くなってどうしますのよ~! リラックスなさいませー! 筋肉をほぐしてほぐして! もー! そんな霸気がないのでどうしますの—!!」
「むう…。あがってなんかないってば…。」
妹の応援が照れるのか、悟史くんは少し恥ずかしそうにしながら、手をひらひらと振った。
今日の試合には、両チームの保護者も大勢やって来ている。沙都子ちゃんの応援に負けず劣らずの飲声がグラウンドに溢れていた。
「皆さん、家族総出で応援に来られてますね。北条さんのお家も、ご家族で応援に来られたらよかったですね。」
「冗談じゃございませんわ。叔父さまにも叔母さまにも、来てもらわないことが一番の応援になりましてよ。」
「あ、いえ、すみません。叔父さん一家ではなく、…沙都子ちゃんのお父さんとお母さんです。」
私らしくもなく失言だったかもしれない。沙都子ちゃんの表情が一瞬雲った。だが、その表情の景り方にはほんの少しの違和感があった。古傷に触れられて悲しい、というよりは、……何か形容のし難い雰囲気があったのだ。
「…もちろん、あの人たちにも来てもらいたくありませんわ。それに来てと言ったって、にーに一の応援なんか来てくれるわけありませんもの。」
「そんなことはありませんよ。ご両親も、もし健在だったならきっと今日、応援に来てくれていたと思いますよ。」
「来ませんわよ。」
この頃になると、沙都子ちゃんの違和感に気付いていた。……どことなく感じられる攻撃的ニュアンス。…そう。彼女は両親を今なお、不快に思っていたのだ…。
「私とに一に一は連れ子ですのよ。……そのせいで、お母さまは再婚に何度も苦労されてますの。離婚のほとんども私たちコブ付きのせいですわ。今のお母さまにとって、私とに1にしは邪魔な存在なんですもの。」
「そんなことがあるわけないじゃないですか。悟史くんも沙都子ちゃんも、可愛い子どもだったはずです。」
「そんなことはありませんわ。」
きっぱりと拒絶する。…両親の死去から短からぬ時間が経っているにもかかわらず、なお許せぬ僧悪。……多くの場合、どんな恨めしい対象も死ねば憂さが晴れるものだ。だが、彼女の場合、死してなお許せぬ根深い僧悪があった…。
だから、……確信する。
「今だから話しますわ。…実はお義父さまとお母さまは、…私とに—に—を殺してしまおうと思っていたのですのよ。嘘じゃありませんわよ。もちろん証拠もあるんですのよ! 物証ではございませんけど、確実にそうだと断定できる状況証拠がたくさんたくさんあるんですの!」
彼女の感情が次第に複雑になっていく…。瞳には例えようもない僧悪の色が混じり始め、明らかに冷静さを欠いていることが一目でわかった。
そして彼女が自信たっぶりに話す、両親が自分たちに殺意を持っていた証拠だとする数々のエピソードも、…悲しいくらいのすれ違いと勘違いで満ちていた。試しにそのひとつを指摘したら、…彼女は烈火の如く怒り狂う。
そう。…もう彼女の中では、両親が自分を殺そうと画策していたことで了解されてしまっているのだ。…だからこそ、殺される前に正当防衛で殺したことが自分の中で納得できる。
…もしも、両親の殺意という前提が崩されたなら、……彼女は自らの両親を、自分の勘違いで殺してしまったという十字架を負わねばならない…
彼女は今も目の前で口汚く、両親が如何に狡猾に自分たちの抹殺を画策していたかを、罵り続けている。そして、……転落して当然の存在だったとも。
もう間違いない。……沙都子ちゃんは末期症状により