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生肉贴,要啃的和机翻的自取

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生肉贴,要啃的和机翻的自取


IP属地:福建来自iPhone客户端1楼2020-02-09 08:52回复
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    IP属地:福建来自iPhone客户端2楼2020-02-09 08:53
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      2025-06-15 03:20:56
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      52 王女殿下は退治したようです
       フィリアレギス公爵領の領都に立つ、権力を誇示するかのような豪奢な領主邸。その執務室には、王都から戻ってきた公爵家長男のフリードと執務代行官のファントムの姿があった。
      「ファントム叔父上、これが新たに開拓したい産業の計画書ですか?」
      「そうだ。領地北部にあるボレアリス山脈の木を伐採して売れば、領民の生計にも領地財政の足しにもなるだろう」
       執務机に座り、手に分厚い紙束を持ちながら難しい顔でうなっているフリードの前には、無精髭を生やした中年の男性が立っている。
       ファントムと呼ばれたその男は、手元の資料をめくりながらため息をこぼした。チャコールグレーの髪は疲労のせいか輝きがなく、目の下にはクマをこしらえている。彼はスカルロの妹の入り婿で、フリードやスカルロが領地にいない間、分家の当主として領地の管理を任されていた。
      「それに、木材は建築材や燃料以外にも利用の幅が大きいだろ。紙や日常品などにも広げられれば女子供でも手に職だ。皆で力を合わせて乗り切れれば、民の生計も領地の財政も徐々に立ち直る」
       フリードの目を真っ直ぐ見据えて、ファントムは力強く訴えた。
      公爵領はラピス国との国境にあたるボレアリス山脈の麓にあり、樹木は豊富である。近年の公爵領は慢性的な財政難と不作による飢饉に見舞われており、領地の政務に長年携わってきたファントムには、産業の転換を図る以外に困難を打破する道はないように思われた。
       しかし数百年もの間、他の産業で代々潤っていたために、国境に近く投資規模も大きい林業に本腰を入れた領主はいない。保守的で冒険を嫌う義兄と派手好きな浪費家の義兄嫁、それらの性格に吝嗇という性質も併せて受け継いだこの甥を、簡単には説得できないだろうとファントムは腹を括っていた。
      「今年に入って取り寄せたジャガイモの苗も無事に成長しているし、これを機に不作に強い産業に移行することができれば、領の経営もより安定するだろう」
       木材運搬のために自分が所有する馬車を転用し、斧や鋸などの道具を揃えて領民たちに貸し与え、あとは森から街までの運搬用の道を、農道や街道とをつなぎながら敷設できれば産業としてスタートできる、そう考えてファントムは山に眠る材木資源の利用を提案したのだ。
       ファントムが提出した書類に目を通し、フリードはそれをバサッと机に置くと静かに首を横に振った。


      IP属地:福建来自iPhone客户端3楼2020-02-09 08:55
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        「叔父上、新しい産業を開拓することには僕も賛成ですが、財政が厳しいこの時期に、林業に手を出すのは大きな賭けです。実績の程度も見えないのにお金は出せませんね。現状の資金でやりくりをしてください」
        「……」
        「それに、どうしても開拓されたいのなら、申し訳ないが道を敷設する場所は変えてください。これだと母上の薔薇園の横を通ってしまう」
        「しかし……! そこが一番安全で近道なんだぞ」
        「母上の薔薇園には希少な花もあります。万が一傷つけるようなことがあっては困ります」
         ファントムが何か言う前にフリードは机に地図を広げ、ある場所を指差した。
        「ところで叔父上、この村は今なんの産業も行なっていないですよね」
         フリードが指したのは、ボレアリス山脈の中腹にあるマルヌ地方のとある村だった。元々養鶏業を主に営んでいた村だったが、二年前の飢饉で人口が減り、今は廃村となっていた。
         この村のすぐ北には布織や染料の元となる植物を栽培して暮らしている地方があり、領地全体の産業が大きく打撃を受けている今、唯一まだ利益を上げている命綱だ。
        「私はマルヌ地方に力を入れたいと思っていますので、ここの一帯は私に任せてください、考えがあります。叔父上はとりあえずこのリストにあるものを取り寄せてください」
        「……麻、花、鉛……染料や織物用の原料ならまだ倉庫に残っているぞ? こんなに取り寄せてどうするつもりだ?」
        「ですから、染色業を更に強化して収入を増やすんですよ」
         ファントムにリストを渡し、フリードは机に広がっている書類の束から一枚を引き出して掲げた。それは公爵領の食糧庫の在庫などを示したものである。
        「それから食糧庫にある麦類は全て酒作りに回しましょう。今は少しでも収入を増やすべきです」
        「待て! それは国からの救済用の食糧だぞ。領民の生活はどうするんだ! 民たちが納得するとでも……」
        「我が領の酒造産業は財政を支える大きな大黒柱ですよ。それは叔父上もわかっておいででしょう」
         ファントムはフリードに食ってかかるが、フリードは涼しい顔で微笑みを浮かべてその言葉を遮った。
        「それに、我が公爵家はここ数年、領地経営のために多額の借金をしています。叔父上もここ数年は領地経営のために私財をはたいてくださっているでしょう? 僕は僕なりに収入を上げて、皆様の良心に報いたいのですよ」
         もっともらしいことを言っているが、そうして手に入れた金の殆どは配下や領民に還元されることなく、公爵家の豪奢な生活を潤すために垂れ流されることをファントムは知っていた。
         しかし、ファントムはただの執政代行官であり、妻であるスカルロの妹は既に他界している。跡取りもなく、入り婿に過ぎない名ばかりの伯爵であるファントムが、本家直系嫡男に異を唱えたところで意見が通るはずもない。ただ拳を握り締め、言葉を腹に飲み込むことしかできなかった。
        「とりあえず、まずは酒造の責任者を呼んでもらえますか? 話したいことがあるので」
         さっさと話を切り上げてしまったフリードに、追い出されるように執務室を出たファントムは長いため息をつく。
         廊下の窓から外を見れば、屋敷の壁の先の豪奢な窓枠とその向こうにあるくすんだ色の景色は、まるで場違いな額縁に入った絵画のようで、チグハグとした不自然さを感じると同時に、自身の無力さを見せ付けられているようだった。
         どうしようもない苦々しい思いを抱き、山の向こうから微かに響く雷鳴の音を聞きながら、ファントムは重い足取りで歩き始めた。


        IP属地:福建来自iPhone客户端4楼2020-02-09 08:56
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          ***
           週末の午後、街に行くためエントランスでニコルと買い物リストの打ち合わせをしていたレティシエルの邸宅に来客があった。公爵家のお抱え商人・エリックである。
           数日前にジークとバリーと話した後、レティシエルはエリックを呼んでヴィルス織を買っている。その商品をエリックは今日届けに来たのだ。
           ジークの故郷の現状について尋ねてみたが、公爵家は元からヴィルス村との取引が頻繁ではなかったため、込み入った事情はわからないが、組合ギルド同士の縄張り争いなどに巻き込まれた可能性は否めない、とエリックは言う。
           ちなみに公爵家全体の取引量を増やせるかも聞いてみたが、それはスカルロに相談しないとわからないらしいので断念した。
          「お嬢様はこれからお出かけですか?」
          「ええ。買出しをしに王都へ行くつもりよ」
          「そうですか……って、え?お嬢様も買出しに行かれるのですか?!」
          「そうよ。最近よく一緒に行っているの」
           しばらく二人で雑談を交わす。公爵家の屋敷にいた頃は経済や市場の話をよく聞きにいっていたが、引越してからは会うこともなかったので、こうして話すのも久々である。
          「ではドロッセルお嬢様、私はこれで失礼しますね。安全な王都と言えども物騒なことも多いですから、気をつけてお出かけくださいね」
          「わかったわ、ありがとう」
           エリックが帰ったあと、レティシエルは手早く身支度を整え、ルヴィクと一緒に屋敷を出た。ルヴィクの買い物にレティシエルがついていくことは、今では普通である。
           レティシエルたちを乗せた馬車は南門まで何事もなくたどり着いたが、いつもより人々が浮き立っているのを見てレティシエルは首をかしげた。
          「ねぇ、ルヴィク。今日城下で何かあるのかしら?」
          「特に何か行事があるわけではないですが、王都に十数年ぶりに新しい総合商会ができたからでしょうか。確か全国の特産品や骨董品などに力を入れているお店で、今は開店祝いの特売をしているそうですよ」
          「あら、何それ面白そうだわ。ところで“特売”というのはどういうことなの?」
          「あ、それはですねー……」
           特売の説明をうけながら、二人は大通りを進んでいく。頻繁に王都に来ているルヴィクはその店の場所を知っているようで、買い出しの店に行きがてらに寄りましょうと言ってくれた。
           目的の店は、石造りで装飾が少ない堅い印象を受ける四角い建物に入居していた。入口には多くの人が集まり、どの商品が割引中なのかが書かれた掲示板の前は大勢の人でごった返していた。
           ドアを開け先には広々としたエントランスホールが広がっている。正面には案内所があり、その両側には二階に上がる階段もある。さらに店の中は壁や衝立などでいくつかのエリアに区切られており、それぞれのエリアで別々の物を販売していた。
          「早速回ってみるわ」
          「お嬢様!? お一人で回られるんですか!?」
          「ええ、そうよ」
          「ダメですよ! こんなに人がいる場所でお嬢様をお一人にするなんてできませんよ」
          「平気よ、子供じゃないんだから」
          「いえ、そういうことではなくてですね……!」
           スタスタと先に行くレティシエルをルヴィクが追いかける。
           色んなエリアで売られている全国の特産品を見て二人ではしゃいだり、時には買ってみたりして歩いていくと、一番奥にあるアンティークコーナーに到着した頃には入店からかなり時間が経っていた。
           アンティークコーナーは、エリアに入ると向かいに長い木製カウンターがあり、その奥に商品が陳列された棚が並んでいる。カウンターの下はガラスケースになっており、そこには光輝く銅製の壷やユニークな宝石箱など美しい品々が所狭しと陳列されていた。


          IP属地:福建来自iPhone客户端5楼2020-02-09 08:57
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            「あれ? ドロッセル様、お久しぶりです」
             そのカウンターで、エディが店員と何か話していた。エディはレティシエルに気づくと、軽くこちらに向かって手を振る。
            「ごきげんよう、エディさん。お買い物ですか?」
            「ええ、新しくできた商店がどんな感じなのかなって、気になって見に来たんですよ」
             レティシエルがカウンターまで歩いていくと、さっきエディと話していた店員がにこやかに話しかけてきた。
            「いらっしゃいませ、お嬢様。何かお探しですか?」
             街に出るとき、レティシエルは悪目立ちしないよう、いつも質素な服装で髪を頭巾で隠しているのだが、生まれ持った容姿や雰囲気のせいもあり、さらに従者も連れているとなると、すぐにお金がある身分であることがバレてしまうらしい。
            「……いえ、お気になさらず」
             今度ルヴィクに兄役でもしてもらおうかしら、なんて考えながらレティシエルは答える。
             学園のミュージアムに通い始めて以来、レティシエルは骨董や芸術趣味に目覚めてはいるが、どちらかというと見て楽しむ派である。知識量と識別力が不足していることも自覚しているため、実際に芸術品を買おうという心意気はまだ無いのだ。
            「御目が高いですね。そちらのガラス瓶は300年前の遺跡から掘り出されたものでして、現存している数少ないガラス製の瓶でございます」
             ガラスケースに飾られた骨董品を眺めていると、店員が再び声をかけてきた。
             興味があると思われたのか、店員は饒舌に品物を指さしながら色々と解説をしてくれたが、それよりもレティシエルは、ケースの隅に広げられた小さなハンカチに興味をひかれた。
            「美しいですね」
            「ええ、そうね」
             色鮮やかで繊細な刺繍が施された白いハンカチであった。刺繍の模様は複雑な浮き彫りになっていて、ヴィルス織で見かける幾何学紋様の柄に似ているようにも思われた。どうやって縫い上げたのだろうとルヴィクと一緒に眺めていると、店員が食らい付いてきた。
            「そちらがお気に召しましたか?こちらの刺繍は20年ほど前に宮廷で流行したイドリアヌス紋でして、数年で突然発明者の職人が引退して技術が断絶してしまって、今では幻の紋様とされております。来店のご記念にいかがでしょうか?お安くさせていただきますよ」
             会話の端々でも抜かりなく商品を勧めてくる店員の商魂のたくましさに感心していると、横からエディの声が聞こえてきた。
            「しかし店員さん、ここの商品は一般的な値段よりは安いように思うんですけど」
            「ええ、そうなんです。全国の素晴らしい特産品をもっと広く知ってもらいたいので、あえて利益を削って価格を安くしているんですよ」
             エディの質問に対して、店員は誇らしそうに胸を張る。
            「うちの大旦那であるマイヤー様のご信念がありまして、骨董品のような芸術品も貴族方や資産家が買い占めるのは良くないでしょう。だから一般の方にも買いやすいよう、手ごろな値段で全ての商品を提供するよう心がけております。まぁ、開店特売をしていることもあるんですがね」
            「なるほど……」
             店員の言葉に、横で聞いていたレティシエルは思わずうんうんと頷く。民に平等であるべきと考えているレティシエルには、共感できる理念であった。
             その後もしばらく三人……主にエディと店員が商品について語っていた。ジークの件もあり、この頃織物手工に強い関心を抱いているレティシエルは、せっかくだからと先ほどのハンカチを購入することにした。
            「エディさんは、美術品にお詳しいのですか?」
            「行商中に骨董とかを取り扱うこともありますからね。去年なんかは北方の山脈を越えた先にある砂漠地帯の土器を運んだんですけど、これがまた大変で」
            「山脈の向こうが砂漠、なのですか?」
            「ええ、山脈を隔てて向こうは全然気候が違うんですよ。向こうでは焼けるように暑いのに、戻ってきたら雪が降ってるんです。もう参っちゃいましたよ」


            IP属地:福建来自iPhone客户端6楼2020-02-09 08:57
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              アンティークコーナーを出たレティシエルたちは、そのまま他のコーナーに向かう。歩きながら、レティシエルはエディに骨董品や旅先話について根掘り葉掘り聞き始めた。レティシエルの間断ない質問に、エディは嫌な顔一つせず全て丁寧に答えてくれ、ルヴィクも交えた三人の会話はさらに盛り上がった。
              「ごめんなさい、荷物まで運んでもらって」
              「いえいえ! 僕もご一緒できて楽しかったですし、気にしないでください」
               エディまで一緒に来ることはなかったのだが、会話が弾みに弾んでしまい、結局最後まで買い物につき合わせてしまったうえに、荷物まで運んでもらってしまった。一人一つずつ紙袋を抱えながら、お店を後にした三人はオレンジ色に染まる石畳の道路に出た。
               建物の裏にある駐車場に止めた馬車に荷物を載せていると、奥の路地から数人の住民が慌ただしく通りに走ってきた。
              「……? どうしたのかしら?」
              「騒がしいですね、何かあったのでしょうか」
               レティシエルとルヴィクがそんな話をしている間にも、また一人若い女性が悲鳴を上げて顔を真っ青にして転がり出てきた。
              「何か揉め事かもしれないですね。ちょっと様子を見てきます」
              「私も行くわ。ルヴィク、馬車と荷物を見ていてちょうだい」
              「え!? お嬢様! エディ殿!」
               言い終わるや否や、レティシエルとエディは問題の路地に向かっていく。
               路地に入ると、石畳の上には道脇に積んであったのであろう木箱、板、布などが一面に散乱しており、中に埋もれるように一人の男性が倒れていた。服の袖が破けて血がにじんでいる腕はだらりと下がっており、顔も痣だらけで紫色になっていて、腹をかばうようにうずくまる姿は見るからに重傷だった。
              「え……バリーさん!?」
               その男性が、以前ジークに紹介された同郷の男性であることに気づき、レティシエルはハッとなった。
               倒れているバリーの腫れあがった顔を見てエディが慌てて駆け寄り、すぐさま傷口に手をかざして治癒魔法の詠唱を唱えた。美しい黄金の光がバリーを包む。
              「いたぞ! あっちだ!」
               そのとき、野太い叫びとともに路地の突き当りから二人の男が走ってきた。二人とも皮の鎧とブーツを着用し、フードで顔を隠しており、一般の善良な市民に似つかわしくない装いであるのは明らかだ。
              「ドロッセル様……! 危ないので隠れていてください!」
              「大丈夫です。バリーさんをお願いしますね」
               レティシエルを庇おうと身を起こしたエディにそう伝えると、レティシエルはエディたちを背後にかばった。
              「……あ? なんだお前、邪魔だ!」
              「どけ、女。俺たちはそこで倒れてる奴に用があるんだ!」
               速度を落とさず、二人のチンピラ男は威嚇するように喚きながら大股で近づいてくる。大柄の色黒の男はレティシエルを払いのけようと右手でレティシエルの左腕を掴んだ。
              「いってぇぇ!」
               次の瞬間、レティシエルは左手で男の右手首の関節を掴み、そのまま男の腕をひねり上げるようにして押さえ込みながら男の膝の裏を蹴った。
               あっという間の出来事にエディはもちろん、男本人も何が起きたのか把握できないまま地面に仰向けに倒れる。
              「このっ! やりやがったな!」
               痛みにうめいている相方を見て、もう一人の細身で腕に刺青をした男は道に落ちていた太い木の棒を拾い上げ、雄たけびをあげながら殴りかかってきた。
              「ドロッセル様、危ない!」
               エディが叫んだと同時に、レティシエルは右手を構え、男は振りかぶった棒をレティシエルめがけて振り下ろした。
              「な、なんだ!?」


              IP属地:福建来自iPhone客户端7楼2020-02-09 08:58
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                しかし、棒がレティシエルに届くことはなかった。突如、レティシエルの右手から鋭い光がほとばしる。強烈な光に目が眩んだのもつかの間、振り下ろされた棒は見えない壁に激突して甲高い音を響かせる。
                 男は驚く間もなく、結界にぶつかった衝撃で折れた棒とともに派手に吹っ飛んだ。
                 一瞬にして地面に叩きつけられたにチンピラ男二人は何が起きたのかわからず、驚愕と恐怖が入り混じる表情で、射抜くような眼差しで見下ろす見目麗しい令嬢を凝視してはジリジリと後ずさる。
                「この、ば、化け物め……! 覚えていろよ!」
                 捨て台詞を吐きながら逃げていく男たちを確認しつつ、レティシエルは急いでバリーのもとへ駆け寄る。
                「……エディさん、すみません……ご迷惑を……」
                 エディの応急処置でひとまず意識が戻ったバリーは、弱々しく掠れた声を力なく喉から絞り出した。全身に怪我を負っているためレティシエルでもこの場ですぐに治すことはできない。
                「きちんと手当てしなくては。一旦私の屋敷に運びましょう。エディさん、手伝ってくださる?」
                「ええ、もちろん」
                 先ほどの騒ぎで付近に少しずつ人が集まり始めている。注目を浴びる前に、レティシエルたちはバリーを馬車に乗せてその場を離れるのだった。


                IP属地:福建来自iPhone客户端8楼2020-02-09 08:58
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                  2025-06-15 03:14:56
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                  IP属地:福建来自iPhone客户端9楼2020-02-09 09:00
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                    53 王女殿下は保護したようです
                     レティシエルの屋敷のエントランスホールで、ニコルは箒を手に掃除しながら自身の主人の帰りを待っていた。いつも帰宅する頃の時間になると、出迎えるためにこうして玄関に来るのだ。
                     入り口の外から馬車を止める音が聞こえ、ニコルはいつも通り箒を置いて外に出るが、そこで彼女は馬車から降りてくる四人の人物を見た。
                    「ただいまニコル」
                    「お、おかえりなさいませ、お嬢様……」
                     出迎えに来てくれたニコルにレティシエルは帰宅の挨拶を述べる。その後ろにはエディと、バリーを負ぶったルヴィクが立っている。
                     最初はポカンとしていたニコルだが、ルヴィクの背にいる傷だらけのバリーを見て我に返った。
                    「ニコル、客室は使える状態よね?」
                    「はい、大丈夫です! お水や道具が必要ならお持ちします」
                    「お願い」
                     ニコルがバタバタと屋敷に駆け戻り、レティシエルたちは足早に客室に向かい、ベッドにバリーを横たえる。
                    「バリーさん、しっかり! 俺の声、聞こえますか?」
                    「……うっ……」
                     エディの声掛けに対して反応しているところを見ると、意識はあるようだ。
                    「バリーさん、今から治療しますのでもう少し踏ん張ってください」
                    「え? ドロッセル様が治療されるのですか?」
                    「ええ、エディさんもそばについていてあげてください」
                     しばらくするとニコルが水の入った盆と布を持ってきて、ルヴィクが汗や血をぬぐってからレティシエルが治療に取り掛かる。
                     レティシエルが手をかざすと淡い光がバリーを包む。レティシエルが使ったのは上級の治癒魔術で、重度の怪我も傷跡を残さず治せるが、その代わり術の発動と治療時間は長い。
                     柔らかなオレンジ色の光は真綿のように優しくバリーの体を包み込み、十数分かけて少しずつジワジワと傷跡が消えていく。やがて光が頼りなく漂いながら周囲に吸い込まれて消えると、ベッドから小さなうめき声が聞こえ、バリーがゆっくりとまぶたを開いた。
                    「……ここは、いったい……」
                    「バリーさん、気がつきましたか?」
                     バリーは状況を把握し切れていないようで、自身の顔を覗き込みながら声をかけるレティシエルに気づくと、部屋の様子をぐるりと見渡して呆然と目を瞬かせた。
                    「あなたは……確か、先日……」
                    「あら、私のことを覚えておられるのですか?」
                    「はい……ジークくんの……」
                    「ええ、級友のドロッセルと申します。王都の裏路地で倒れていたあなたを見つけて、治療のために屋敷に連れてきた次第です。お体の具合はどうですか?」
                     そう問われてバリーは自分の両腕を天井に向けてかざし、左右に動かしたりして脱臼していた肩などを確認する。
                    「痛みは……ありません。しかし、これは……いや、どうして?」
                     あれだけの大怪我を負っていたにもかかわらず、その身に傷跡一つ残っていないことにバリーは驚きを隠せないようで、腕を動かしたり、手をしきりに握ったり開いたりしていた。
                    「あ、ありがとうございます、ドロッセル様。なんてお礼を言ったら良いか……」
                    「お礼には及びませんよ。それよりまだ横になっていてください。傷は治せても、体力的なものは治せませんから」
                     上半身を起こそうとするバリーをレティシエルは押しとどめる。傷が癒えたばかりで、まだ体力は万全ではないはずだ。
                    「それでバリーさん、何があったのです? どうしてこんなお怪我を?」
                    「……」
                    「何があったのか、聞かせてくれませんか?」
                     ベッド横の丸椅子に座り、エディが心配そうにバリーに尋ねた。
                     最初は言おうか言うまいか迷って口をつぐんでいたバリーも、エディが真摯に何度か尋ねるとポツポツ話し始めた。
                    「……実は、シュレメール商会との追加仕入の契約が延期になってしまって……」
                     バリーは目に見えて落ち込んだ表情を浮かべている。レティシエルは、数日前にジークとエディが赴いた商談のことだと思い出した。
                    「延期? どうして……商談は成立していましたよね?」


                    IP属地:福建来自iPhone客户端10楼2020-02-09 09:02
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                      エディは信じられないというように目を見開くが、バリーさんは静かに首を横に振る。
                      「シュレメールの大旦那のほうから、急に取引を延期すると言われたんです。理由ははっきりと言われなかったんですが、なんでも品物を輸送中にキャラバンが襲われて大損をしたようで……」
                      「そういえば昨日の新聞にそのような記事が載っておりました。数日前、王都に向かう道中にあったキャラバンが山賊に襲われて、運んでいた荷物を根こそぎ強奪されたとか。商品を奪われた商人も、キャラバンに出資していた人々も大きな損害を被ったようで」
                       バリーの言葉を引き継ぎ、日ごろから新聞での情報収集を欠かさないルヴィクがそう言って顎に手を当てた。確かにそれほどの甚大な損害を被ったのなら、目下は新しい契約どころではないだろう。
                      「旅費が底を尽きてきたので、宿屋を引き払ってどこか他に安く泊まれる場所をと探して歩いていたら突然あの男たちに囲まれて……。なんとか逃げようとしたんですけど、ずっと追いかけてきて……」
                      「どうして、そこまでバリーさんを……? 何か心当たりはありますか?」
                       レティシエルはちらりとバリーに目を向けるが、バリーは困惑した表情でふるふると首を横に振った。
                      「いいえ……まったく。契約を打ち切られて、再契約をお願いしに行った際に付き返されることはありますけど、他は何も……」
                      「組合ギルド同士の何か揉め事に巻き込まれた可能性はありませんか?」
                       先日のエリックから聞いた話を思い出し、何か関係があるかもしれない、とレティシエルはエディに聞いてみた。
                      「うーん……どうでしょうか。証拠が見つかって裁判になったときには両成敗になってしまいますし、長く商売していきたい組合なら、悪評や取引停止で食い扶持を無くすようなリスクを背負ってまで、こんな暴力的な手段に出ないように思いますが……」
                       レティシエルの質問に対して、エディは腕を組み、眉間にしわを寄せながら答える。
                      「納品先のお客様とか、どこかのお貴族様のご機嫌を損ねてしまった可能性は?」
                      「それなら商品の質が悪いとか、そういう噂が立っていてもおかしくないと思うのですが……」
                      「そうなんですよね。うちの商品にそういった悪い評判もないようで……」
                       ニコルやルヴィクも加わり、その後も様々な可能性について出し合ったが、どれも予測の域を出ず、会話は行き止まりにつき当たってしまった。
                       途切れてしまった会話を紡ぐように、レティシエルは話題を変えてバリーに話しかける。
                      「宿を引き払われたとおっしゃっていましたが、この後どうされるおつもりですか?」
                      「もう少ししたら王都に出稼ぎに来る村の者たちが到着するので、到着次第彼らと共同で宿を取るつもりです」
                      「……それは危険じゃないですか? あの男たちは、もしかしたらまたバリーさんを狙ってくるかもしれないんですよ?」
                       バリーの言葉をさえぎるようにエディが心配そうに言う。
                      「もう縫物ができない私は売り込んで回ることでしか村を助けられないし、宿代もジークくんに工面してもらっているので、これ以上村のみんなに迷惑はかけられません。出稼ぎ組が来るまでもっと安い宿に泊まれればいいかなと……」
                       確かに安い宿の多くは王都の外れにあり、そういった場所は治安が悪いことが多いと聞く。身体の傷が癒えきっていないバリーを、再び危険にさらすわけにはいかない。レティシエルはしばらく思案し、バリーに提案する。
                      「バリーさん、よかったらうちに泊まっていきませんか? ここなら、少なくとも王都の安宿よりはずっと安全です」
                      「え? で、ですが、これ以上ご迷惑をおかけするわけには……」
                      「私はちっとも迷惑ではありませんよ。困っている方を放ってはおけませんから」
                       公爵家を出てからクラウドやニコルの事情に触れ、さらにジークの村の状況を知り、千年前も今も民の生活には日々様々な苦悩や困難、無力感が連綿と付き纏っているのだとレティシエルは実感した。
                       戦乱から遠ざかった平和なこの時代に、貴族として転生した自分はその豊かさを日々何気なく謳歌して生きているのだろう。
                       しかし、公爵家を出てからこの豊かで平和な国を見聞きしていくうちに、民の日常に埋もれている苦難が、煌びやかな貴族社会という夢幻なる蜃気楼の向こう側に隠されてしまっているようで、幾度も胸が詰まるような思いがした。自分にできることで手を差し伸べてあげられることはないのだろうか。レティシエルはそう思った。
                      「し、しかし、やはりダメですよ……! 私のような身分の低い田舎者が、ドロッセル様にご迷惑をおかけするなど恐れ多いことで……」
                       なおも言い募るバリーを制し、レティシエルは諭すように優しく話りかける。


                      IP属地:福建来自iPhone客户端11楼2020-02-09 09:03
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                        「困った人がいたなら助けるのが道理ですし、身分など関係ありません。何より怪我も治ったばかりです。安宿は危険ですし、バリーさんに何かあってはジークも村の皆さんも悲しまれますよ。だから気になさらずに泊まっていってください」
                         遠慮しようとしていたバリーだが、レティシエルの言葉に感銘を受け、涙ぐみながら最終的には屋敷に泊まることを了承した。
                        「本当にありがとうございます……!私にできることがあれば、お屋敷の雑用でもなんでもお申し付けください」
                         感激のあまり目を潤ませ、バリーはレティシエルに何度も頭を下げた。それだけ、レティシエルの言葉はバリーにとって信じられないと同時に嬉しいものであった。
                        「今日と明日は休みですし、この後王都に戻るのでジーク殿のほうには僕が伝言を持っていきます」
                        「ドロッセル様もエディさんも、何から何までありがとうございます。この御恩は一生忘れません……!」
                         今にも泣きそうなバリーを、レティシエルはなんとか宥めて落ち着かせる。
                        「それにしても、あの男たちはなんだったのかしら?」
                         バリーとの話が一段落したところで、レティシエルは思い出したようにつぶやく。エディも首をかしげるが、ここでバリーから思わぬ情報が入った。
                        「そういえば……あの男たちは皆同じタトゥーをしていました」
                         バリーの一言でレティシエルはハッとなった。そういえば棒で殴りかかってきた男の腕に刺青のようなものがあったことを思い出したのだ。
                        「……そういえばありましたね、刺青」
                        「うろ覚えですが……剣のような形に、蛇か蔦のようなものが絡みついた模様だった気がします」
                         バリーが言いながら、小さく身振り手振りで空中に何か描き始めた。
                         それを見たレティシエルはルヴィクに目配せし、ルヴィクが机の引き出しに仕舞ってあった紙を渡すと、バリーはそこにぎこちなく刺青の絵を描き始める。
                        「……あら? バリーさん、もしかして右腕の怪我が治っていませんか?」
                         ペンを持つバリーの右腕が不自然にプルプルと震えているのを見て、レティシエルは治し損ねた箇所があるのか、ともう一度魔術の用意をしようとするが、それをバリーが止め、自身の腕をさすりながら笑った。
                        「あ、いえ。これは古傷のせいですので、気にしないでください。若い頃に怪我してから腕に力が入らなくて。少しペンを持ちにくいだけでー……」
                         そう言いながらもバリーはなんとか最後まで描きあげた。
                        「それでしたら、あまり無理しないでまずは休んでください。ニコル、食事の用意は?」
                        「できております、お嬢様!」
                         レティシエルが指示を出すと、ニコルが勇んで部屋を出ていった。ルヴィクたちが出かけている間に、ニコルはいつも食事の用意を済ませてくれている。
                        「……これは……」
                         バリーが描き上げた紋様の紙を拾い、エディはそれをじっと見つめながら小さくつぶやくが、レティシエルは呟きに気づかずエディに声をかけた。
                        「エディさんもご一緒にいかがですか?」
                        「あ、いえ。せっかくのご厚意ですが、このあと用事がありますので……これで失礼しますね」
                        「そうですか。せめて玄関までお見送りさせていただきます」
                        「お気遣いありがとうございます。ところでこちらの紙、俺の方でお預かりしてもいいですか? 色々当たってみますので」
                        「ええ、もちろんです。よろしくお願いします」


                        IP属地:福建来自iPhone客户端12楼2020-02-09 09:04
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                          バリーが刺青を描いた紙を畳み、懐のポケットに入れながら立ち上がったエディと一緒に、レティシエルも部屋を出てエントランスに向かう。
                          「そういえば、エディさんはどうして治癒魔法を使えるのですか?」
                           エントランスまでの道中、レティシエルはずっと気になっていたことをエディに尋ねた。
                           現場では慌ただしくてスルーしてしまったが、この世界で魔法を使える平民はあまりいない。そのうえ稀有な光属性持ちとなると、レティシエルはエディがどこで魔法を学んだのかが気になった。
                          「ああ、僕の祖父が錬金術の研究をしていて、魔法についてもある程度研究していまして。僕も昔から祖父に色々教えてもらっていて、少しかじった程度ですけど」
                          「まぁ……レンキン術、ですか?」
                           レティシエルは錬金術たる技術も名前も知らないのだが、まさか錬金術を知らないとは思っていないのか、エディはそのまま話し続けた。
                          「ええ、魔法と錬金術の複合応用について研究していたんですよ。医者とか薬師みたいなこともやっていましたけど、俺には小難しくてよくわからなくて」
                          「へぇ……」
                          「ドロッセル様、ご興味があるなら今度本を貸しましょうか? 古書もお好きでしたよね? 先月旅先で仕入れた術式関連の書籍もあるんで、よかったら持ってきますよ」
                          「あら、そう? ではお願いしようかしら」
                           そんな会話を交わしつつ、二人はエントランスにまでやってきた。
                          「日も沈んできましたので、道中、気をつけてくださいね」
                          「はい。ドロッセル様、バリーさんをお願いしますね」
                          「ええ」
                           錬金術というのも、レティシエルの時代には無い学問であったからその実態が気になったが、エディが帰るこのタイミングでしつこく訊くわけにもいかない。
                           ひとまず自身の好奇心に蓋をして、自分でも図書室で錬金術について調べてみようかな、とエディの背中を見送りながらレティシエルは思った。
                           ***
                           王都の家々から明かりが消え、街が完全に寝静まっている頃のフィリアレギス公爵邸。等間隔にロウソクが灯っているだけの薄暗い廊下を、一人の男が静かに歩いていく。
                           くすんだ臙脂色のマントとフードで目立たない装いのその男は、公爵家の面々の私室がある二階の、とある部屋の前で立ち止まる。
                          「まだ起きていらっしゃいますか? サリーニャ様」
                           小さな声が扉越しに聞こえてくる。窓際のソファーに座ってホットワインを飲んでいたサリーニャは返事の代わりに丸テーブルに置いてあるベルを鳴らした。
                           入室の許可を下すと、部屋の扉が静かに開き、マント姿の影が滑り込んできた。サリーニャはグラスを置き、紫の瞳を男に向ける。
                          「今日はいつもより遅かったわね」
                          「申し訳ありません」
                          「まぁいいわ。それで? ドロッセルについて何かわかったかしら?」
                           郊外の屋敷でドロッセルと会ったときからその様子に違和感を覚えていたサリーニャは、スカルロに呼び出しを食らったあの日のあと、密偵を雇ってドロッセルを秘密裏に監視させていた。
                          「生活における行動サイクルは変わらず学園、王都、自宅が中心で、以前報告した通りで目立った変化はございません」
                          「そう……」
                          「ただ、令嬢は本日の午後に王都で傭兵のような男たちを撃退しておりました」


                          IP属地:福建来自iPhone客户端13楼2020-02-09 09:04
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                            その一言に、サリーニャの眉がピクリと動く。
                            「その話、詳しく聞かせなさい」
                             サリーニャが先を促すと、密偵は当時の出来事を要点をかいつまんで話し始めた。
                            「新しく立ち上がった商会に令嬢は従者を連れて訪れ、その帰りに怪我を負った男性を目撃して助けようとしたところ、男性を追ってきた二人組と対峙なされました」
                            「それであの子はどうしたの?」
                            「流れるような手つきで二人組の片方を投げ飛ばしておいででした。その後も光属性と思われる強力な結界魔法を用いて相手を退けていました」
                             それを聞いてサリーニャは眉間にしわを寄せる。彼女ははっきりと違和感を覚えた。密偵が語った内容は、貴族令嬢としてもドロッセルを身近で見てきた者としても信じられないものであったからだ。
                             まずなんといっても、魔力を一切持たないはずのドロッセルが魔法を使ったという事実が信じられなかった。しかも、大の男を投げ飛ばせるほどの力や技を持っていることも信じがたい。
                             ドロッセルは確かに勉学にもマナーにもダンスにも天才的な才能を発揮したが、貴族令嬢である彼女は護身術も何も学んでいないし、体術に精通しているという話も聞いたことがない。
                            「また、令嬢は近頃行商人と仲良くなっているようで、先ほどの怪我した男性も行商人と一緒に屋敷へ運び込んでおりました」
                            「……そう。報告ご苦労様、監視を続けてちょうだい」
                            「かしこまりました」
                             一礼すると、マントの男は静かに部屋を出ていく。
                             一人になった部屋の中で、サリーニャは密偵によってもたらされた情報を吟味しながらワインの入ったグラスを揺らした。
                             いつもお読みいただきありがとうございます!
                             初等生編の完結までもう少しかかりますが、主人公を取り巻く環境や思惑、様々な心情、公爵家の人々との行く末など、皆様に楽しんで頂ける展開になるよう頑張って執筆していきます。
                             構成や文章表現など至らない部分も多いですが、遠慮なく随時叱咤激励を頂けたら幸いです。引き続き本作をよろしくお願いします!


                            IP属地:福建来自iPhone客户端14楼2020-02-09 09:05
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                              2025-06-15 03:08:56
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                              54 王女殿下は人助けをするようです
                               バリーを家で保護した次の日、エディはジークを連れて再びレティシエルの屋敷を訪れた。
                              「ジークくん!」
                               客室に入ってきたジークを見て、バリーが驚いたように声を上げる。
                              「バリーさん、怪我をしたと聞いてお見舞いに来ました」
                              「心配をかけてすまないね……」
                              「いいえ、無事でよかったです」
                               バリーの元気な姿に安心したのか、ジークは頬を緩ませ安堵の笑みを浮かべ、レティシエルに深々と頭を下げる。ジークと一緒にバリーも再度お礼を言い、レティシエルはそんな二人を押しとどめた。
                              「村から何か連絡はあったかい?」
                              「ええ、父さんから手紙は来ました。出稼ぎに来る方々は予定通り明後日には王都に到着するみたいです」
                               応接間の椅子に腰掛けると、バリーは見舞いにやってきたジークに事の成り行きを説明し、ジークはここ数日の村の情報などを伝え、情報共有が始まった。
                              「どうやら、近頃噂を聞きつけて買い叩きに来る商人が増えているみたいです」
                               ジークはそう言って難しい顔で下を向きながら腕を組む。
                              「特に最近マイヤー商会から、ヴィルス織を大量に買い込みたいと申し出が来ているみたいで……」
                              「……マイヤー商会? 最近王都に新しく出店した例の?」
                               ジークの言葉にエディがぴくりと眉を動かし、反応した。
                              「ええ、普段の取引価の三分の一の金額で、馬車五台分の布織を買い取りたいと」
                              「え?! 村の方々はその取引を受けるんですか?」
                              「いえ、さすがに断ったそうです。質とデザインを改良しながら長年培ってきたヴィルス織の名声を崩すわけにはいきませんし、そのような買取値ではうちの村にほとんど利益は残りませんから……」
                               ジークの話に出てきた“マイヤー商会”という単語に聞き覚えのあったレティシエルは、隣にいるルヴィクになんとなく聞いてみた。ルヴィクは苦笑いである。
                              「お嬢様、もしかしなくても商会の看板をご覧になっていなかったのですね? つい昨日アンティークコーナーでハンカチを買われたお店ですよ」
                              「……あら、このハンカチを買った店だったのね。特売の看板しか見ていなかったわ」
                               店を訪れた当時のことを思い出し、レティシエルは黙ったままふいとルヴィクから目をそらす。新しいお店に浮かれて、店名をロクに見ていなかった自覚は一応ある。
                               誤魔化すように言いながら、レティシエルはポケットから白いハンカチを取り出す。マイヤー商会で買ったイドリアヌス紋が施された白いハンカチだ。
                              「あ、それは……」
                               レティシエルが何気なく取り出したに過ぎないハンカチだったが、それを見たバリーが目を丸くして小さく息を呑んだ。
                              「バリーさん? どうかしました?」
                              「あ、いえ、懐かしい模様だなと思いまして……」
                              「……懐かしい?」
                               ハンカチの模様を見るバリーの目は優しげで、どこか遠い場所を見つめているように寂しげだった。
                               なぜバリーがそんな表情を浮かべるのかわからず、首をかしげるレティシエルに、ジークが横から説明の言葉を加えた。
                              「イドリアヌス紋は、バリーさんが独自で編み出した刺繍模様なんです」
                              「まぁ……! そうだったのですか」
                               予想外の事実にレティシエルのみならずエディもルヴィクも目を丸くし、バリーを見る。バリーは小さく頷き、照れくさそうに頬を掻いた。
                              「はい、もう20年くらい前の話ですが――……」


                              IP属地:福建来自iPhone客户端15楼2020-02-09 09:06
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