胎児にアリシアの魂を移して出産する。
翡翠によってもたらされた可能性に俺は賭けることにした。
そのためには家族の理解と協力を得ることが不可欠だ。なにせ自分はまだ学生で自立していない。生活は全て親に頼り切っているのが現状なのだ。
俺は家族を説得するために家に帰ることにした。家族は夜中に何も言わずに飛び出して行った俺のことを心配して起きているらしい。
「おまたせ、アリス」
巫女服から普段着に着替えた翡翠が戻ってきた。一緒についてきて両親に説明してくれるとのことで、正直ありがたい。
「先にメールで概要をアリスの家族に伝えておいたわ。こんな話を突然切り出すよりはいいでしょう?」
「ありがとう、翡翠」
子作り云々を自分の口で説明するのは抵抗があったので翡翠の気遣いはありがたい。
両親にしても事前に知っていた方が、考えたり相談したりする時間が取れるだろう。
「……反対されたらどうしよう」
異世界では勇者だ救世主だとちやほやされていたけど、この世界の俺はただの無力な学生でしかない。
俺ひとりでは子供を産んで育てるどころか、自分自身の衣食住すらままならない。
不安そうにしていたら、優しく抱き寄せられた。
俺は翡翠の腕の中に収まってしまう。
「心配しなくても大丈夫。おじさまもおばさまもアリシアのことを大切に思ってるから。あそこまで手を尽くして助ける方法を探していたんだもの」
「そう、かな……?」
「私も一緒に説得するから」
厚手のセーター越しでも感じる柔らかさに、俺は本能的な安心感を覚える。ふんわりと鼻孔をくすぐる柔軟剤のいい匂いに目を細めた。
「もし、どうしても反対されたなら、両親に黙って妊娠してしまえばいいわ。そうしたら、中絶しろとまでは言わないと思うから」
「それは……」
「アリシアを助けたいんでしょう? だったら覚悟を決めなさい」
困惑する俺をたしなめるように翡翠は言う。
「まず目的を決める。それから、どうすれば目的を達成できるか考えるの。本当に大切なことなら、手段を選んでいちゃダメよ」
「わかった」
翡翠が言うと説得力がある。
今はそれを見習わないといけないだろう。
「最悪駆け落ちして、私が稼いで二人を養う。私はそれくらいの覚悟はしているわ」
「そ、そうなんだ」
「アリスも覚悟を決めて。迷いを残していたら説得はできないわよ」
俺は目を閉じてゆっくりと深呼吸しながら心を落ち着かせる。
「……私はアリシアを助ける」
そのためには俺がどんなに苦しくても辛くても構わない。
悲痛な覚悟をしかけたとき、翡翠の手が俺の後頭部をぽんぽんと叩いた。
「ねぇ、アリス? 不幸になってもいいなんて考えるのはダメよ。あなたはあなたが幸せになるためにがんばるの。そこを履き違えてはいけないわ」
翡翠はたしなめるような口調で言う。
後頭部を優しく手で撫でながら。
「そうだね……うん、翡翠の言う通りだ」
俺が不幸になることを両親は許してはくれないだろう。アリシアを助けるのは俺の幸せのため、それは絶対に忘れてはいけない。
「ありがとう……もう大丈夫」
俺はそう言って翡翠から離れる。
頭の中のもやもやは晴れて、思考ははっきりした方向性を見つけられていた。
「うん、いい顔になった」
翡翠が笑って言う。
俺は自然な笑顔で翡翠に応えられた。
※ ※ ※
家に帰った俺たちがリビングに入ると、既に両親と優奈が勢揃いしてダイニングテーブルに座っていた。
俺と翡翠は並んだテーブルの席に腰を下ろす。
「メールを読ませて貰ったよ翡翠ちゃん……まさか、こんな方法があったとは。よく気がついたね」
俺たちが着席して、最初に口を開いたのは父さんだった。
「魂のことを調べるため病院で妊婦さんを見ていたときに思いついたんです」
「なるほど……それで、アリスはどうするつもりなんだ?」
「私はアリシアを助けたい。だから、子供を産むことを許してほしいんだ」
翡翠によってもたらされた可能性に俺は賭けることにした。
そのためには家族の理解と協力を得ることが不可欠だ。なにせ自分はまだ学生で自立していない。生活は全て親に頼り切っているのが現状なのだ。
俺は家族を説得するために家に帰ることにした。家族は夜中に何も言わずに飛び出して行った俺のことを心配して起きているらしい。
「おまたせ、アリス」
巫女服から普段着に着替えた翡翠が戻ってきた。一緒についてきて両親に説明してくれるとのことで、正直ありがたい。
「先にメールで概要をアリスの家族に伝えておいたわ。こんな話を突然切り出すよりはいいでしょう?」
「ありがとう、翡翠」
子作り云々を自分の口で説明するのは抵抗があったので翡翠の気遣いはありがたい。
両親にしても事前に知っていた方が、考えたり相談したりする時間が取れるだろう。
「……反対されたらどうしよう」
異世界では勇者だ救世主だとちやほやされていたけど、この世界の俺はただの無力な学生でしかない。
俺ひとりでは子供を産んで育てるどころか、自分自身の衣食住すらままならない。
不安そうにしていたら、優しく抱き寄せられた。
俺は翡翠の腕の中に収まってしまう。
「心配しなくても大丈夫。おじさまもおばさまもアリシアのことを大切に思ってるから。あそこまで手を尽くして助ける方法を探していたんだもの」
「そう、かな……?」
「私も一緒に説得するから」
厚手のセーター越しでも感じる柔らかさに、俺は本能的な安心感を覚える。ふんわりと鼻孔をくすぐる柔軟剤のいい匂いに目を細めた。
「もし、どうしても反対されたなら、両親に黙って妊娠してしまえばいいわ。そうしたら、中絶しろとまでは言わないと思うから」
「それは……」
「アリシアを助けたいんでしょう? だったら覚悟を決めなさい」
困惑する俺をたしなめるように翡翠は言う。
「まず目的を決める。それから、どうすれば目的を達成できるか考えるの。本当に大切なことなら、手段を選んでいちゃダメよ」
「わかった」
翡翠が言うと説得力がある。
今はそれを見習わないといけないだろう。
「最悪駆け落ちして、私が稼いで二人を養う。私はそれくらいの覚悟はしているわ」
「そ、そうなんだ」
「アリスも覚悟を決めて。迷いを残していたら説得はできないわよ」
俺は目を閉じてゆっくりと深呼吸しながら心を落ち着かせる。
「……私はアリシアを助ける」
そのためには俺がどんなに苦しくても辛くても構わない。
悲痛な覚悟をしかけたとき、翡翠の手が俺の後頭部をぽんぽんと叩いた。
「ねぇ、アリス? 不幸になってもいいなんて考えるのはダメよ。あなたはあなたが幸せになるためにがんばるの。そこを履き違えてはいけないわ」
翡翠はたしなめるような口調で言う。
後頭部を優しく手で撫でながら。
「そうだね……うん、翡翠の言う通りだ」
俺が不幸になることを両親は許してはくれないだろう。アリシアを助けるのは俺の幸せのため、それは絶対に忘れてはいけない。
「ありがとう……もう大丈夫」
俺はそう言って翡翠から離れる。
頭の中のもやもやは晴れて、思考ははっきりした方向性を見つけられていた。
「うん、いい顔になった」
翡翠が笑って言う。
俺は自然な笑顔で翡翠に応えられた。
※ ※ ※
家に帰った俺たちがリビングに入ると、既に両親と優奈が勢揃いしてダイニングテーブルに座っていた。
俺と翡翠は並んだテーブルの席に腰を下ろす。
「メールを読ませて貰ったよ翡翠ちゃん……まさか、こんな方法があったとは。よく気がついたね」
俺たちが着席して、最初に口を開いたのは父さんだった。
「魂のことを調べるため病院で妊婦さんを見ていたときに思いついたんです」
「なるほど……それで、アリスはどうするつもりなんだ?」
「私はアリシアを助けたい。だから、子供を産むことを許してほしいんだ」