第1回 『プロローグ』
ここは、桜立舎学苑。
幼稚舎から大学までがあるこの学苑では、特に音楽の教育に力を入れており、そのキャンパス内では、様々な音色が风に乗って流れてくる。
ある时はバイオリン、ある时はピアノ、そしてまたある时はフルート。
この日は珍しく、フォルテールの音色が流れていた。
演奏する者の心情を如実に表现する妙なる音色は、その演奏者の性格をあらわすという。
――ゆったりとしたこの音色は、大好きなあの先辈の音だ……!
闻いているだけで心が愈されるような音に、彼女は歩く足を速める。
音色に导かれるままに、制服のスカートを翻して阶段を駆け上がった。
廊下を走ることは校则で禁じられているので、なるべく早足で廊下を通り抜け、『第6练习室』とプレートの下がった部屋のドアをガラッと开ける。
「こんにちは、かぐら先辈!」
元気に声をかけると、キーボードに向かっていた人影がこちらを向いた。
「あら、未羽ちゃん、今日は早いね」
その人物がゆっくりと向き直る。
それと同时に、愈しの音色がピタリと止まった。
开け放たれた窓から入ってきた风が、その人物の薄茶の长い髪をサラリと揺らす。
いつか、他爱のないお喋りの中、头の上で二つにまとめた髪をオダンゴ结びにしているのがトレードマークになってしまって以来、ヘアスタイルを変えると苦情が来るようになったので変えたくても変えられない、とボヤいていたのを思い出して、未羽はその颜に微笑みを浮かべる。
「だって、かぐら先辈の音を闻くと、早く会いたくて、じっとしていられないんですもの!」
かけよって、大好きなかぐらに抱きついた。
抱きしめる腕に力を入れると、石けんの良い香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
「あははっ、そんなにぎゅってしたら苦しいよ、未羽ちゃん」
苦笑混じりの、けれど、包み込むような优しい声が降ってくる。
未羽は、こうしてかぐらを抱きしめたり、抱きしめられたりするのが好きだった。
かぐらから発せられる优しい石けんの香りが、优しく包んでくれるような気がして、とても安らぎを覚える。
未羽のふわふわした髪をそっと抚でてくれる指の感触も好きだった。
この指が、あのゆったりとした伸びやかな音を奏でるのだと思うと、幸せな気分におぼれてしまいそうになる。
「えへへ……かぐら先辈、だーい好き!」
そう言って、未羽はかぐらの胸元に頬を摺り寄せた。
「もう……未羽ちゃんったら、甘えんぼうさんなんだから」
手放しで甘えてくる未羽が可爱いらしく、かぐらも未羽を邪険に扱わない。
未羽が満足して离れるまで、引き剥がすことなく、じっと待ちながら、头を抚でていてくれる。
「あたし、この学苑に入学して良かったって思うんです!」
ひとしきり、かぐらの胸元に擦り寄ってから、颜を上げた未羽がにっこりと笑う。
「ねぇ、ウソじゃないですよ? ホントのホントですよ!」
「やだなぁ、未羽ちゃん、谁も疑ってないってば」
「だってーぇ! ……んー、もう、どうしたら、あたしのこの嬉しさが伝わるんだろう? 言叶なんかじゃ伝わんないかな? 歌っちゃった方が早いかも!」
「……歌うのは构わないけれど、その前に、ドアを闭めなさい」
冷静な声が降ってくる。
「あ、织歌ちゃん、いらっしゃい……って言うのも変だね」
新しく入ってきた后辈に向けて、かぐらがにっこりと微笑んだ。
「いえ、わたしは宫藤先辈の练习时间に便乗して、ここの练习室を使わせてもらっている居候の身ですから、宫藤先辈が『いらっしゃい』とおっしゃるのは间违っていないと思います」
ここは、桜立舎学苑。
幼稚舎から大学までがあるこの学苑では、特に音楽の教育に力を入れており、そのキャンパス内では、様々な音色が风に乗って流れてくる。
ある时はバイオリン、ある时はピアノ、そしてまたある时はフルート。
この日は珍しく、フォルテールの音色が流れていた。
演奏する者の心情を如実に表现する妙なる音色は、その演奏者の性格をあらわすという。
――ゆったりとしたこの音色は、大好きなあの先辈の音だ……!
闻いているだけで心が愈されるような音に、彼女は歩く足を速める。
音色に导かれるままに、制服のスカートを翻して阶段を駆け上がった。
廊下を走ることは校则で禁じられているので、なるべく早足で廊下を通り抜け、『第6练习室』とプレートの下がった部屋のドアをガラッと开ける。
「こんにちは、かぐら先辈!」
元気に声をかけると、キーボードに向かっていた人影がこちらを向いた。
「あら、未羽ちゃん、今日は早いね」
その人物がゆっくりと向き直る。
それと同时に、愈しの音色がピタリと止まった。
开け放たれた窓から入ってきた风が、その人物の薄茶の长い髪をサラリと揺らす。
いつか、他爱のないお喋りの中、头の上で二つにまとめた髪をオダンゴ结びにしているのがトレードマークになってしまって以来、ヘアスタイルを変えると苦情が来るようになったので変えたくても変えられない、とボヤいていたのを思い出して、未羽はその颜に微笑みを浮かべる。
「だって、かぐら先辈の音を闻くと、早く会いたくて、じっとしていられないんですもの!」
かけよって、大好きなかぐらに抱きついた。
抱きしめる腕に力を入れると、石けんの良い香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
「あははっ、そんなにぎゅってしたら苦しいよ、未羽ちゃん」
苦笑混じりの、けれど、包み込むような优しい声が降ってくる。
未羽は、こうしてかぐらを抱きしめたり、抱きしめられたりするのが好きだった。
かぐらから発せられる优しい石けんの香りが、优しく包んでくれるような気がして、とても安らぎを覚える。
未羽のふわふわした髪をそっと抚でてくれる指の感触も好きだった。
この指が、あのゆったりとした伸びやかな音を奏でるのだと思うと、幸せな気分におぼれてしまいそうになる。
「えへへ……かぐら先辈、だーい好き!」
そう言って、未羽はかぐらの胸元に頬を摺り寄せた。
「もう……未羽ちゃんったら、甘えんぼうさんなんだから」
手放しで甘えてくる未羽が可爱いらしく、かぐらも未羽を邪険に扱わない。
未羽が満足して离れるまで、引き剥がすことなく、じっと待ちながら、头を抚でていてくれる。
「あたし、この学苑に入学して良かったって思うんです!」
ひとしきり、かぐらの胸元に擦り寄ってから、颜を上げた未羽がにっこりと笑う。
「ねぇ、ウソじゃないですよ? ホントのホントですよ!」
「やだなぁ、未羽ちゃん、谁も疑ってないってば」
「だってーぇ! ……んー、もう、どうしたら、あたしのこの嬉しさが伝わるんだろう? 言叶なんかじゃ伝わんないかな? 歌っちゃった方が早いかも!」
「……歌うのは构わないけれど、その前に、ドアを闭めなさい」
冷静な声が降ってくる。
「あ、织歌ちゃん、いらっしゃい……って言うのも変だね」
新しく入ってきた后辈に向けて、かぐらがにっこりと微笑んだ。
「いえ、わたしは宫藤先辈の练习时间に便乗して、ここの练习室を使わせてもらっている居候の身ですから、宫藤先辈が『いらっしゃい』とおっしゃるのは间违っていないと思います」