――なるほど……! だからあんなに引きこまれたんですね。それに、死んだシーンも衝撃的でした。血の塊になって消えるという。
タムラ:置鮎さん(置鮎龍太郎さん/恵比寿役)は「光になって消えるんじゃないかと思ってた」っておっしゃってましたけど(笑)、そこは原作通りやりました。で、それにも理由がちゃんとあるんですよ。
――というと?
タムラ:あそこでバッと血が飛び散るじゃないですか。それが、言の葉(ことのは)につかなきゃいけないからです。要は、その後に出てくる父様(ととさま)の言の葉に血が付いてることが重要なんですよね。あだちとか先生は、戦いのあとに“傷跡”を残しておられることが多くて。例えば唯一生き残った恵比寿の神器の邦弥も夜トに受けた傷がしっかり残されているんです。なので言の葉に関しても、恵比寿の血の跡が消えずに残っていることが大事だったんです。
――それに、そうすることで父様の言の葉は恵比寿が持ち帰った言の葉だということもわかりますね。
タムラ:そうなんです。それも含めて、血は印象づけなくてはいけなかったんですよね。ちなみに、1期のラストでオリジナルキャラの蠃蚌(らぼう)が死んだんですけど、このエピソードを制作しているとき、原作のほうで恵比寿が死んだあたりだったんですよ。なので、蠃蚌が死ぬシーンは恵比寿を参考にしています。ただ、蠃蚌は水の中で死んだので、恵比寿と同じ消え方をしているというのはパッと見じゃ分からないですけどね。
■恵比寿の声は「悩みどころ」だった 黄泉編アフレコ秘話
――黄泉編のアフレコ現場はいかがでしたか?
タムラ:恵比寿のキャラクターをどんな風にするかっていうのは、悩みどころでしたね。恵比寿って、不思議な雰囲気じゃないですか。頭いいんだか悪いんだかよくわからないし、顔も超絶美形かって言うとそうでもないし。ともすればサラリーマンみたいだし、七三分けだし。
――普通かというとそうでもないし。まったく読めないですよね。
タムラ:頻繁に代替わりを繰り返しているとはいえ若い感じでもないですよね? 夜トは、見た目年齢で言うと二十代前半くらいの気分で作っていますが、それよりは年上に見える。
――うーん、確かに……。
タムラ:一番最初に置鮎さんにいただいたテイクは、ちょっと美形すぎるかなって思ったんです。それと神様らしい高貴な感じが強いなとも。それよりは、ドライな考え方をする人っていうほうが良い。マイペースで空気を読みすぎず、なおかつ自分が正しいと思うことをサクサクとするっていう。そういう一見飄々とした感じをどう再現してもらえばいいんだろうって、ずっと悩んでましたね。
――それはすごく難しそうです……。
タムラ:ディレクションのとき、うっかり「サラリーマン風に」と言ったら、「サラリーマンって言ってもいろいろあるからなあ」って置鮎さんも悩まれてしまって、本当に申し訳なかったなということもありました(苦笑)。でも、9話で夜トとじっくりかけあいしたシーンで、「あ、まさにこれが恵比寿だ!」って感覚になったんですよ。7話8話でも方向性は出ていたんですけど、そこまでは悪役として出ているから、キャラクターから受ける印象が違ったんでしょうね。9話でようやく恵比寿本人の“地金”が出てきて、腑に落ちたのかもしれません。そこからはやりやすかったなというのを覚えています。
――置鮎さんだからこそできた表現なのかもしれないですね。
タムラ:不思議な雰囲気を持っている恵比寿が、単なるおじさんではつまらないじゃないですか。プラスアルファの“魅力”がないといけない。そのバランスがご本人の人柄もあいまってうまくハマったんじゃないかなあと思っています。
――では、2期のクライマックスについても。ここでは、父様が登場しました。最後の最後でこんなふうに引きつけるのか!と驚いたんですが……?
タムラ:クリフハンガー、ってやつですね(笑)。というのも、父様に関しては原作でも詳しく描かれていないから、アニメ本編ではまず描けなかったんですよ。だから、オチとして使おうと。
――そういう理由からだったんですね!
タムラ:それもあって、本編でも父様の存在が出過ぎないようにしています。原作では、野良が父様の話を頻繁にしているんですけど、シリーズ内で収拾がつかない謎やフリが多すぎると終わった時にもやもやしてしまう。ですのでそれが無くても成立するようにセリフを調整していたりしますね。
――なるほど。監督のお話を聞いていると、視聴者の感情の動きを想定してすごく丁寧に作られているなと感じます。
タムラ:アニメーションを作っているので、絵を動かすのが仕事だと思われがちなんですが、動かしたいのは絵ではなくて観ている人の感情なんです。だから、観ている人の気分が盛りあがるのであれば、動かさないほうが正解というときもある。観ている人の気持ちよりも先に絵がガチャガチャ動いちゃうのは、きっと違うんですよね。
――視聴者がついていけなくなりますよね。
タムラ:そうそう。画面の中でキャラが暴れまわってるんだけど、気持ちが今ひとつついていかないっていうのだけは避けたかったんですよ。だから「最終的にお客さんにこういう気持ちになってもらいたい」「じゃあ、そこに行くまでに登場人物はどう動かそうか」と。そういうふうに逆算して作ってますね。
――それが、監督の思考プロセスだと。
タムラ:そうです。『ノラガミ』に関して言えば、あだちとか先生の「このシチュエーションではこういう気分を出したい」という思惑を、“映像”で最大限発揮させるためにはどう構成すればいいかというふうに考えています。だから、着地点は原作と同じなんですよ。ただ、原作を全く知らない人でも腑に落ちる形で感情をコントロールするために、登場人物と観てる人の気持ちがちゃんとリンクするように構成を考えています。
■シーンの細部にまでこだわる監督が明かした“仕掛け”とは
――ここまでいろんな話を聞いて「今すぐ観て確かめたい!」と思うシーンがたくさん出てきました。一挙放送やパッケージ発売を控えているタイミングでもありますし、せっかくなのでほかにもチェックすべきシーンを教えてもらえませんか?
タムラ:じゃあ、小ネタ的なものを。9話の藤崎がひよりにキスするシーンで、直前に藤崎がひよりの手を握るんですけど、その手の握り方が結構複雑なポージングをしているんですよ。指の形を見てもらえるとわかるんですが、藤崎が握りきれなかったのか、小指だけ握られていないんですよね。ここは原作通りに再現しておいたんです。
――(該当のシーンを魅せてもらいつつ)あっ、本当だ! 恥ずかしながら気づかなかったです……。
タムラ:ファンからすると目をそむけたくなるシーンではありますよね(笑)。ここはなんでこうなっているのか敢えて先生には聞かず、大事なところだろうと思ってそのまま描きました。あと、このシーンって、ひよりが「夜トに手を握られた」と思って振り返ってるんですよ。でも実際は藤崎で、そのままキスされてしまうっていう流れなんですけど。なので、夜トがひよりの手を握っている描写も一瞬入っているんですよね。そっちは、スタンダードな握り方をさせています。
――対になっているんですね。
タムラ:そうです。絵コンテの段階からハッキリ描き分けてます。ちなみに、最終話のラスト付近に回想が入ってくるんですけど、そこでは夜トのほうだけ使っています。
――あと、オープニングとエンディングの映像でも少し変わった部分がありましたよね?
タムラ:1期ほどじゃないですけどね。2期のオープニングに関しては、最終話だけラストの夜トの表情を変えました。アバンで恵比寿が代替りしたっていうのがわかった直後なので、その切ない気持ちをうまくのせられないかなと思って。エンディングも、本編で夜トが社(やしろ)をもらった話数から、社にかけていた光をとって「夜ト」の文字を見せるようにしています。
1話から見えていたら、ネタバレになっちゃいますからね。で、もらったあとは、逆に社のことをちゃんと覚えておいてもらいたかったんですよ。最終話直前で、あの社をキッカケに夜トの本当の名前がわかるから。本編ではずっと出てきているわけじゃないので、エンディングで毎回観てもらえるようにしています。オープニングとエンディングは1期と対比させた描写も入れていますので、見比べていただけると面白いかと。
――監督から直接意図を聞くと、より観る楽しみが出てきます! では次に、手応えを感じたシーンも伺いたいです。
タムラ:個人的に盛りあがりを感じられたのは、10話で恵比寿と夜トが離れ離れになったところ。ふたりの気持ちがひとつになったところで離れ離れになるというのは、もちろん意図してやったんですけど、岩崎さん(岩崎琢さん)の音楽の力も借りて、うまいことハマったなと思いました。
――ラストのシーンですね。恵比寿を救おうとする夜トの勇ましさは、見ていて興奮しました。
タムラ:夜ト、なんてヒーローらしいんだ!と思いますよね(笑)。で、離れ離れになってからは一気にヒロインらしくなるという、不思議な流れになってます。僕は少年漫画っぽい友情話に弱いんですけど(笑)、そういうアツさを見せられたかなと。うまくいったなって自分でも思いましたね。