恋に恋しているうちは(2)
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いつものように、何も兴味の沸かない教室でぼんやりと座るだけ。
「枣、最近、授业サボるの多いよ?」
「今はいるだろ」
「…まぁ、そうだけど」
隣の流架の小言を、それなりにかわして机に突っ伏した。今はもう何も考えたくは无い。
そんな様子に流架もそれ以上何も言うことはなかった。
ただ、流架の言い分も十分に分かっている。最近の自分の行动は少しおかしい。暇さえあれば、中等部の近くにある森に入り浸っているし、放课后は特力の教室にいることも少なくなかった。
「…あーあ」
その日の放课后。
「あ…っ、俺、怒ってるんだった! お前が普通に话しかけるから、うっかりしちまって…。おい、俺は怒ってるんだからな! 気軽に话しかけるなよっ!」
よくこんな天下の往来で、そんな言叶が吐けるもんだな、とは思っていても口にはしない。翼には周りの目というものが自分达をどういう风に见ているかなど、あまり考えた事はないのだろう。
「ふん。じゃあ、この流架达がセントラルタウンで买ってきた新作お菓子は、俺一人で食べる事にするよ。じゃあな」
隠すように小脇に抱えていた小袋を目の前に差し出しながら、そう言って、くるりと身体を反転させる。
「…え、えぇっ。わわわっ、待て待て待てっ! それとこれとは话が违うだろっ」
「违わねぇ」
「うぅぅ…、わーった、わーったよ! 前言撤回するから、一绪に食おうぜ。なっ」
头一つ以上も违う相手の腕に一生悬命缒り付いて来る様は、いつ见ても、「はー、おバカだな」としみじみ思う。なぜ、ついつい手を出してしまうのかと考えた事もあるが、今はもう翼が他を见ているというだけで、苛々とした気持ちになるのだからどうしようもない。
人気の少ない森の一角に腰を下ろし、お菓子を広げた。
「はー、美味いなぁ…。幸せ~」
そんなことを言いながら、黙々と食べている颜は缓みに缓みきっている。
「そんな美味いんだったら、残り全部食えよ」
「え、お前、いらないの?」
「…甘いのは、そんな得意じゃないから」
「そ? じゃあ、远虑なく。…ん、美味い」
确かに甘いのはそれほど得意でもなかったが、人にやるほど嫌いでもない。今は、なんとなくそうすれば翼が笑うのではないかという安直な考えがあった。
「俺、前言撤回するっていったけど、また同じ事されたらまた怒るからな」
翼は、お菓子を頬张りながら、少し拗ねた口调でこう言った。
「…っそ。じゃ、今のうちに理由でも闻かしてくれると有难いんだけど」
「分かんねぇのか」
「残念ながら」
その答えに、翼が軽くため息をつく素振りをする。
「は~…。そうだよな、お前、そういうのに机敏なタイプにゃ见えないし」
あまりの言叶に、不本意だと思わず眉を寄せてしまう。
「…あのな。じゃあ言うけど、お前、俺のこと、何て呼ぶ?」
「………、?」
予想をしていなかった言叶に、思わずキョトンとした目を向けてしまう。谁が谁をどう呼ぶかって…?
「『おい』や『お前』とか、更には『カゲ』、『バカ』…。俺が思いだせるのこれくらいなんだけど、どう思う?」
「…怒ってたの、それか?」
无意识に呆れた声が出てしまう。その声色に気付いたのか、翼はまた少し拗ねたような表情をしながら、颜を反らした。
「お前…、马鹿にしてるだろ」
「いや、别に?」
この言叶は本心だった。翼がそんな事で怒っているなど思いもしなかったから。それに、何故か胸の奥に、ほんわりとした暖かいものが出来たような気がするのは、気のせいか。
「そ、それだけだ…ッ」
「…そ。それじゃあさ、これから俺、アンタのこと、何て呼ぼうか。何て呼んで欲しい?」
隣に座っている俯き加减の翼の颜を、覗き込むようにする。すると、翼は、耳たぶまで赤くして绝句しているようだった。
「何、口ごもってんの。ほら、アンタが呼んで欲しいように呼んでやるよ?」
「…っ、や、やっぱ、今まで通りでいいッ」
「なんで」
「何ででも、だッ。もう、やめやめ!」
これ以上は限界だとばかりに、翼はブンブンと首を振った。まるで、おねだりをしているようで耻ずかしいのだろうということは分かる…が、どうしても、それが可爱く见えてしまって后追いしてしまう。
「人がせっかく希望に応えようとしてんのに、そういうイケズをするなよ、な? こっち向けって」
「イケズ、じゃない」
「じゃあなに。焦らしてんの?」
いくら人気が无いといっても、谁も来ないというわけじゃない。そんな中、翼の膝を跨いで、颜を付き合わせる格好を取るのは少々无谋とも思えたけれど、今はそうしたかった。
「…どけよッ」
「アンタからキスしてくれたら、どいてやる」
両手で頬を挟みこんで、额を付き合わせる。
「…してくれよ。なぁ、『つばさ』?」
「……ッ!!!」