日文同人小说欣赏第一季5篇(普通向)。
【其之五】生まれたこと
来自日站[AT]:http://www.at.noob.jp/at/at.html
原文:
正守の弟はひどい変わり者だ。
最初に対面したときはなんてありふれた奴なんだろうと思ったものだが、限の良守への心象は日に日に移り変わって、今では第一印象とは真逆の印象を抱えるようになっている。だって、毎晩人外の存在と血なまぐさい接し方をしてきて、ああまで生温いままでいられる异能者なんて、ちょっといない。家と使命をその背に负う重き立场にありながら、ケーキ作りが趣味だなんて、ありえない。目の前に置かれた直径十五センチのホールケーキを见下ろして、限はそんなことを思った。
「またケーキか……?」
「またとはなんだー! こちとら毎回バリエーション変えて作ってんだから、いつも同じケーキみたいに言うんじゃねえよ!」
「いつも同じチョコケーキだろうが……」
「ふっふっふ。闻いて惊け! 今度のケーキは使用カカオ当社比五割増しのポリフェノールたっぷり健康チョコケーキだぞ!」
本质的な违いはないんだな、と心の中では思ったけれど、口に出して言うことはなかった。最近こんな风に限は、目の前で真剣な颜をしてホールケーキを切り分けている少年に対して远虑なく物を言うことが出来なくなっていた。彼へ放つ言叶は、口から発射される前に限の中で一度内容を検められる。结果、妙に当たり障りのない言叶に推敲されたり、何も言わないまま终わることもあった。そんならしくない自分が限にはなんだか気持ち悪いが、なんでもない颜で限に近づき话しかけてくる良守を、避けようとか无视しようという気には、不思议とならなかった。
乌森学园の敷地全体が軽く一望できるほどの高み。
レジャーシートよろしく张られた结界の上には、育ち盛り二名によって平らげられた弁当箱。向こうの山には倾きかけた月が引っ挂かっている。正守の额にあるのと同じ月だ。乌森の少年结界师が、切り分けたケーキの一切れを限に差し出して笑う。似ていないのに同じだと限は思った。正守と良守、どちらも平気な颜で限に笑いかける。
「まあ食えよ。今回も甘さは控えめにしといてやったから」
促されて一口食べる。
控えめ、と良守は言うが、限にとってはそれはやはり甘い。けれど、ふっと鼻に抜けるカカオの苦さが心地よくもあった。鼻血が出そうだな、とは思ったけれど、食べられないほどではない。いつもそうだ。良守が作ったものは、なんでも食べられないほどではない。
昔、一度だけ姉とケーキを食べたことがある。限の何歳かの诞生日の折だった。山间の田舎町にはケーキ屋なんて洒落たものは一轩もなかったから、姉が材料を买い揃えて手作りしてくれた。不恰好で、やたらと平べったく、そしてやたらと甘ったるい味がしたケーキを、限は姉と二人で平らげた。こんな失败作でゴメンね、と姉がしょんぼりと言うのに、限は、食べられないほどではない、そう応えた。武闘派の父亲が软弱だと嫌ったため、あの家でケーキを食べたのはその一回だけだった。
「俺思うんだけどさぁ、お前が甘いもの苦手なのって、今まであんまりそういうの食べてこなかったからじゃねえのかな。惯れちゃえば结构イケる口なんじゃねえかと思うんだよなぁ」
だってなんだかんだ言って、お前いっつも、ちゃんと食べるじゃん。
限がケーキを頬张るのを満足そうに见ていた良守が、不意にそんなことを言った。
「だからさ、これからは俺がじゃんじゃん作ってやるから」
「……これからじゃんじゃん?」
限は思わず眉をひそめる。
まるで终わりがまだまだ先にあるような言い方ではないか。
「黒芒楼の件が决着したら、俺は夜行に戻る」
「え、そうなの? ふーん。んじゃあ、诞生日とかクリスマスのときとかには、ケーキ作って届けてやるよ。お前、诞生日いつだよ?」
何気ない口调で讯ねられても、限は答えられなかった。
诞生日おめでとう、不恰好で平べったいケーキの向こう侧で笑った姉の言叶が、脳裏に苏る。家に帰ろうと悬命に震える手を伸ばしてきた姉の颜も。その姉の胸に爪を突き入れ、切り裂いた指の感触も。どんなに优しかった思い出も、今はもう、血まみれの记忆を连想させる连锁でしかない。
「おい? なんだよボーっとして。诞生日、いつだよ」
「要らない」
「は?」
「诞生日に、ケーキなんか。祝われるようなことは、なにもない」
良守がおかしな颜をして限を见た。
限は思う。生まれておめでとうなんて、言われるようではいけないと。
全然めでたくなんかないのだ。自分のせいで消えない伤を负わせた人がいる。
「作るよ、ケーキ」
声をかけられて、限は瞬きをした。
いつのまにかぼやけていた目の焦点を合わせれば、やたらと真っ直ぐにこちらを见つめる良守の颜があった。
「……要らねえって言って」
「作る」
真っ直ぐで顽固な声に、限は言叶を夺われる。
「甘いもん好きな奴は安上がりでいいんだぜ。甘いもん食いさえすりゃ、すぐ元気になるから」
だからさ、と少年が限を覗き込んだ。
黒々とした眼差しは、限を捉えて少しも揺るがない。怯むことも、気负うこともない。いつも彼はただ彼として限の前にいた。
「お前もなれよ。甘いもん好きに」
良守の后ろに、今にも山に隠れてしまいそうな三日月が见えて、まだそこにいてください、と限は祈った。
ひどい変わり者だ、贵方の弟は。
向き合い続けていると、息が出来るようで。
そうして呼吸するうち、根底から违うものに成り果てそうで。
ときどき限は、苦しくてたまらない。
【其之五】生まれたこと
来自日站[AT]:http://www.at.noob.jp/at/at.html
原文:
正守の弟はひどい変わり者だ。
最初に対面したときはなんてありふれた奴なんだろうと思ったものだが、限の良守への心象は日に日に移り変わって、今では第一印象とは真逆の印象を抱えるようになっている。だって、毎晩人外の存在と血なまぐさい接し方をしてきて、ああまで生温いままでいられる异能者なんて、ちょっといない。家と使命をその背に负う重き立场にありながら、ケーキ作りが趣味だなんて、ありえない。目の前に置かれた直径十五センチのホールケーキを见下ろして、限はそんなことを思った。
「またケーキか……?」
「またとはなんだー! こちとら毎回バリエーション変えて作ってんだから、いつも同じケーキみたいに言うんじゃねえよ!」
「いつも同じチョコケーキだろうが……」
「ふっふっふ。闻いて惊け! 今度のケーキは使用カカオ当社比五割増しのポリフェノールたっぷり健康チョコケーキだぞ!」
本质的な违いはないんだな、と心の中では思ったけれど、口に出して言うことはなかった。最近こんな风に限は、目の前で真剣な颜をしてホールケーキを切り分けている少年に対して远虑なく物を言うことが出来なくなっていた。彼へ放つ言叶は、口から発射される前に限の中で一度内容を検められる。结果、妙に当たり障りのない言叶に推敲されたり、何も言わないまま终わることもあった。そんならしくない自分が限にはなんだか気持ち悪いが、なんでもない颜で限に近づき话しかけてくる良守を、避けようとか无视しようという気には、不思议とならなかった。
乌森学园の敷地全体が軽く一望できるほどの高み。
レジャーシートよろしく张られた结界の上には、育ち盛り二名によって平らげられた弁当箱。向こうの山には倾きかけた月が引っ挂かっている。正守の额にあるのと同じ月だ。乌森の少年结界师が、切り分けたケーキの一切れを限に差し出して笑う。似ていないのに同じだと限は思った。正守と良守、どちらも平気な颜で限に笑いかける。
「まあ食えよ。今回も甘さは控えめにしといてやったから」
促されて一口食べる。
控えめ、と良守は言うが、限にとってはそれはやはり甘い。けれど、ふっと鼻に抜けるカカオの苦さが心地よくもあった。鼻血が出そうだな、とは思ったけれど、食べられないほどではない。いつもそうだ。良守が作ったものは、なんでも食べられないほどではない。
昔、一度だけ姉とケーキを食べたことがある。限の何歳かの诞生日の折だった。山间の田舎町にはケーキ屋なんて洒落たものは一轩もなかったから、姉が材料を买い揃えて手作りしてくれた。不恰好で、やたらと平べったく、そしてやたらと甘ったるい味がしたケーキを、限は姉と二人で平らげた。こんな失败作でゴメンね、と姉がしょんぼりと言うのに、限は、食べられないほどではない、そう応えた。武闘派の父亲が软弱だと嫌ったため、あの家でケーキを食べたのはその一回だけだった。
「俺思うんだけどさぁ、お前が甘いもの苦手なのって、今まであんまりそういうの食べてこなかったからじゃねえのかな。惯れちゃえば结构イケる口なんじゃねえかと思うんだよなぁ」
だってなんだかんだ言って、お前いっつも、ちゃんと食べるじゃん。
限がケーキを頬张るのを満足そうに见ていた良守が、不意にそんなことを言った。
「だからさ、これからは俺がじゃんじゃん作ってやるから」
「……これからじゃんじゃん?」
限は思わず眉をひそめる。
まるで终わりがまだまだ先にあるような言い方ではないか。
「黒芒楼の件が决着したら、俺は夜行に戻る」
「え、そうなの? ふーん。んじゃあ、诞生日とかクリスマスのときとかには、ケーキ作って届けてやるよ。お前、诞生日いつだよ?」
何気ない口调で讯ねられても、限は答えられなかった。
诞生日おめでとう、不恰好で平べったいケーキの向こう侧で笑った姉の言叶が、脳裏に苏る。家に帰ろうと悬命に震える手を伸ばしてきた姉の颜も。その姉の胸に爪を突き入れ、切り裂いた指の感触も。どんなに优しかった思い出も、今はもう、血まみれの记忆を连想させる连锁でしかない。
「おい? なんだよボーっとして。诞生日、いつだよ」
「要らない」
「は?」
「诞生日に、ケーキなんか。祝われるようなことは、なにもない」
良守がおかしな颜をして限を见た。
限は思う。生まれておめでとうなんて、言われるようではいけないと。
全然めでたくなんかないのだ。自分のせいで消えない伤を负わせた人がいる。
「作るよ、ケーキ」
声をかけられて、限は瞬きをした。
いつのまにかぼやけていた目の焦点を合わせれば、やたらと真っ直ぐにこちらを见つめる良守の颜があった。
「……要らねえって言って」
「作る」
真っ直ぐで顽固な声に、限は言叶を夺われる。
「甘いもん好きな奴は安上がりでいいんだぜ。甘いもん食いさえすりゃ、すぐ元気になるから」
だからさ、と少年が限を覗き込んだ。
黒々とした眼差しは、限を捉えて少しも揺るがない。怯むことも、気负うこともない。いつも彼はただ彼として限の前にいた。
「お前もなれよ。甘いもん好きに」
良守の后ろに、今にも山に隠れてしまいそうな三日月が见えて、まだそこにいてください、と限は祈った。
ひどい変わり者だ、贵方の弟は。
向き合い続けていると、息が出来るようで。
そうして呼吸するうち、根底から违うものに成り果てそうで。
ときどき限は、苦しくてたまらない。