「エッフェル塔に行きたい!」
松山がそう叫んだのは、岬が昨日、日本のJr.ユースメンバーたちと実に三年ぶりに颜を合わせた后だった。
岬は自宅通いで练习に参加するので、外で待ち合わせていくことになった。といっても练习は毎日あるので、早速の翌日、日が升り始める顷の早朝に约束をした。
もともとここでは早めに起きる癖を松山はつけていたが、朝が得意なわけではない。それでも、异国の空の下、まだ人々が活动を控えている街中に歩みを进めるのは気分が良かった。
(岬、変わってなかったなぁ)
松山は昨日再会したばかりの懐かしい颜を改めて思い浮かべる。岬は翼とも三年ぶりで、それも连络を一切取ってなかったという。それでの、あの完璧なコンビプレイ。いや、更なる成长を见せ、そして、また更なる発展の过程が谁の目にももう见えていた。
(さっすが、ゴールデンコンビだよなっ)
松山はスニーカーに包まれた足を軽やかに运びながら、楽しそうに笑う。あの二人がこの全日本チームにいれば、绝対に负けなしだ。勿论世界がそんなに简単なレベルじゃないことは分かってはいるが、そう思わずにはいられない。翼と岬。このコンビに敌なんているものか、と、松山は纯粋に二人のファンでもあった。
でもそれは彼だけじゃないだろう。あの日向でさえ、日本のゴールデンコンビに敌う奴などいないと真剣に思っているはずだ。
「おはよう、松山! ごめん、待たせた?」
気ままに考え事をしながら待ち合わせ场所に着いた松山は、そう间もないうちに来た岬を迎えた。「早めに出たつもりだったんだけど」と诧びを入れる彼に、「自分も同じだ」と松山は笑った。
早朝のパリ。季节もさながら空気も爽やかで、他爱もない会话をしながら二人は歩く。岬が少し前に立ち、その案内を素直に闻く松山が后に続く。
常に视界に入るエッフェル塔。もうすぐ目の前のところまで来ているが、通りに并ぶ小さな店舗や住宅の朝の色を、视界全体に入れるのも新鲜だった。
どの国でも人が活动を始める前の时间というのは十分に趣があると松山は思う。それが都会であっても田舎であってもだ。自分が生まれ育った雪の国はまた更に感慨も思い入れも深いが、この静けさはどこも一绪だろう。眠らないものはいない。それは人だけじゃなく、猫も犬も鸟も。鱼も、ミミズも、木も。あらゆるものに眠りと目覚めがあって、それはどの街にもあるのだ。
しかし、朝というのは无情に思う。活动するもののいない、生きているものの色がないから、ことさらに自然と造形の境界が顕に见える。
パリの街并みはカラフルではない。エッフェル塔のくすんだグレイが浸透しているような街。そして、朝の澄んだ空の色と、露に濡れたわずかな木々。
(なんだか悲しいな)
二人はエッフェル塔の足元に辿り着いた。松山は、その太い鉄骨で组み上げられた塔を首いっぱいに曲げて见上げると、そう感じずにはいられなかった。
パリは芸术の都だという。だが、ここの色に华やかさはない。たとえば日本で言うなら焼き物や书画。古き良きものは、シンプルなものの中にも何故か目に残る色がある。古典美术と近代美术を比べても、またエッフェル塔に関して言えば、美术ではなく建筑なのであろうが、このパリの芸术というものが、どうしてこんなに色のないものなのだろうかと思ってしまうのだ。美术馆やらなにやらに足を运ばない自分がここまで思ってもいいのかどうか分からないが、教科书で见る絵画や雕刻も、どんなに色を使われようが、どんなに精巧に雕られていようが、西洋美术と呼ばれるものはなんだかどれもくすんで见えてしまうのだ。
日本人の自分には、やはり大和魂しか理解できないのだろうかと思う。それに、自分は富良野のあの大自然の中で育った。所诠、人が作り出すものに“美”というものは感じられないのかもしれない。
「仆は好きだよ。この街」
松山は少し面喰って岬を见た。心を见透かされたような言叶だった。
岬は微笑する。
「自然美って言うものはさ、人が手をかけられないものだろう? だから、人はそれに何とか近付こうとしてさ」
松山は岬の父亲が风景画を描いていることを思い浮かべる。
「そして、その反面、対抗しようとも思うんじゃないかなぁ」
「対抗?」
「そう。人は神様じゃないけれど、その人间に“作る”能力を与えたのは神様だからね」
松山は、难しい话は嫌だな、と思った。だが、岬の话というのは、何故かいつもすんなり心に入ってくる。难しいとか意味が分からないとか思うことでも、何気に体の芯に届くのだ。
「だから、仆は造形美も好きだよ」
ずいぶん间を端折られた気がしたが、思ったように、岬の言叶は抵抗なく心の中に入り、広がった。
神様に与えられた力で、神様に胜负を挑む人间たち。
それはあくなき闘争心とも取れるようで。
松山は岬の笑颜から目を离し、再び头上の鉄塔を仰ぎ见た。
(うん。悪くない・・・か)
自然の空を背にして、黒い鉄の块が朝日を受けて存在を主张する。
それはとても夸らしげで、仁王立ちした人间が地上から天の神様を见上げているようだった。
腹をくくって、目を据えて。
「あははっ なんかいいなぁ!」
声に出して笑って、松山は岬のように、この街を好きになれそうな気がした。
了
松山がそう叫んだのは、岬が昨日、日本のJr.ユースメンバーたちと実に三年ぶりに颜を合わせた后だった。
岬は自宅通いで练习に参加するので、外で待ち合わせていくことになった。といっても练习は毎日あるので、早速の翌日、日が升り始める顷の早朝に约束をした。
もともとここでは早めに起きる癖を松山はつけていたが、朝が得意なわけではない。それでも、异国の空の下、まだ人々が活动を控えている街中に歩みを进めるのは気分が良かった。
(岬、変わってなかったなぁ)
松山は昨日再会したばかりの懐かしい颜を改めて思い浮かべる。岬は翼とも三年ぶりで、それも连络を一切取ってなかったという。それでの、あの完璧なコンビプレイ。いや、更なる成长を见せ、そして、また更なる発展の过程が谁の目にももう见えていた。
(さっすが、ゴールデンコンビだよなっ)
松山はスニーカーに包まれた足を軽やかに运びながら、楽しそうに笑う。あの二人がこの全日本チームにいれば、绝対に负けなしだ。勿论世界がそんなに简単なレベルじゃないことは分かってはいるが、そう思わずにはいられない。翼と岬。このコンビに敌なんているものか、と、松山は纯粋に二人のファンでもあった。
でもそれは彼だけじゃないだろう。あの日向でさえ、日本のゴールデンコンビに敌う奴などいないと真剣に思っているはずだ。
「おはよう、松山! ごめん、待たせた?」
気ままに考え事をしながら待ち合わせ场所に着いた松山は、そう间もないうちに来た岬を迎えた。「早めに出たつもりだったんだけど」と诧びを入れる彼に、「自分も同じだ」と松山は笑った。
早朝のパリ。季节もさながら空気も爽やかで、他爱もない会话をしながら二人は歩く。岬が少し前に立ち、その案内を素直に闻く松山が后に続く。
常に视界に入るエッフェル塔。もうすぐ目の前のところまで来ているが、通りに并ぶ小さな店舗や住宅の朝の色を、视界全体に入れるのも新鲜だった。
どの国でも人が活动を始める前の时间というのは十分に趣があると松山は思う。それが都会であっても田舎であってもだ。自分が生まれ育った雪の国はまた更に感慨も思い入れも深いが、この静けさはどこも一绪だろう。眠らないものはいない。それは人だけじゃなく、猫も犬も鸟も。鱼も、ミミズも、木も。あらゆるものに眠りと目覚めがあって、それはどの街にもあるのだ。
しかし、朝というのは无情に思う。活动するもののいない、生きているものの色がないから、ことさらに自然と造形の境界が顕に见える。
パリの街并みはカラフルではない。エッフェル塔のくすんだグレイが浸透しているような街。そして、朝の澄んだ空の色と、露に濡れたわずかな木々。
(なんだか悲しいな)
二人はエッフェル塔の足元に辿り着いた。松山は、その太い鉄骨で组み上げられた塔を首いっぱいに曲げて见上げると、そう感じずにはいられなかった。
パリは芸术の都だという。だが、ここの色に华やかさはない。たとえば日本で言うなら焼き物や书画。古き良きものは、シンプルなものの中にも何故か目に残る色がある。古典美术と近代美术を比べても、またエッフェル塔に関して言えば、美术ではなく建筑なのであろうが、このパリの芸术というものが、どうしてこんなに色のないものなのだろうかと思ってしまうのだ。美术馆やらなにやらに足を运ばない自分がここまで思ってもいいのかどうか分からないが、教科书で见る絵画や雕刻も、どんなに色を使われようが、どんなに精巧に雕られていようが、西洋美术と呼ばれるものはなんだかどれもくすんで见えてしまうのだ。
日本人の自分には、やはり大和魂しか理解できないのだろうかと思う。それに、自分は富良野のあの大自然の中で育った。所诠、人が作り出すものに“美”というものは感じられないのかもしれない。
「仆は好きだよ。この街」
松山は少し面喰って岬を见た。心を见透かされたような言叶だった。
岬は微笑する。
「自然美って言うものはさ、人が手をかけられないものだろう? だから、人はそれに何とか近付こうとしてさ」
松山は岬の父亲が风景画を描いていることを思い浮かべる。
「そして、その反面、対抗しようとも思うんじゃないかなぁ」
「対抗?」
「そう。人は神様じゃないけれど、その人间に“作る”能力を与えたのは神様だからね」
松山は、难しい话は嫌だな、と思った。だが、岬の话というのは、何故かいつもすんなり心に入ってくる。难しいとか意味が分からないとか思うことでも、何気に体の芯に届くのだ。
「だから、仆は造形美も好きだよ」
ずいぶん间を端折られた気がしたが、思ったように、岬の言叶は抵抗なく心の中に入り、広がった。
神様に与えられた力で、神様に胜负を挑む人间たち。
それはあくなき闘争心とも取れるようで。
松山は岬の笑颜から目を离し、再び头上の鉄塔を仰ぎ见た。
(うん。悪くない・・・か)
自然の空を背にして、黒い鉄の块が朝日を受けて存在を主张する。
それはとても夸らしげで、仁王立ちした人间が地上から天の神様を见上げているようだった。
腹をくくって、目を据えて。
「あははっ なんかいいなぁ!」
声に出して笑って、松山は岬のように、この街を好きになれそうな気がした。
了