うらめしそうに空を见上げ、ココネはため息まじりで呟いた。「あーぁ、伞、持ってくればよかったな…」外出先で仕事を済ませて事务所へと帰る途中。それまで晴れていた空がみるみる昙りだしたかと思うと、やがて大粒の雨が降り始めたのだ。あわてて近くの建物の轩先に入る。ハンカチでカバンの水滴を拭きながらふと辺りを见渡せば、行き交う人たちが伞をさし始め、まるで街に色とりどりの花が咲いたかのようだ。そんな景色を眺めながら(そういえば天気予报でも、雨が降るって言ってたんだよね)と思い出す。事务所を出る时にはそんな事、すっかり忘れていたのだが。事务所までは、まだまだ距离がある。少しの间考えていたココネは、黄色い上着を脱ぐと持っていたカバンをそれで包み、満足気ににんまりと笑う。「よし、これならオッケー♪」「何がオッケーなんだい?」不意に声をかけられ惊いて颜をあげると、赤いスーツの青年が伞を差して立っていた。「オドロキ先辈!」その声の主は、ココネが所属する『成歩堂なんでも事务所』の先辈である王泥喜 法介だった。「オドロキ先辈も、事务所へ戻るところですか?」「うん、まぁ、そうなんだけど…そんな格好でどうしたの?」「あ、このカバンですか?濡れたら大変だからこうして包んでるんです。 中に依頼人さんの大事な物がはいっているので…」「あぁ、证拠品か。なるほど…って、いやそれも大事だろうけど、そっちじゃなくて」王泥喜は、薄手の白い半袖シャツ姿のココネに、少し目を见开く。「まさかその格好で事务所まで帰るのかい?」季节は春先とはいえ、まだまだ肌寒い。特に先ほど雨が降り出してきてからは、さらに空気が冷えてきていた。しかしココネは、気にする様子もなく、「えぇ。もちろん、そのまさかです。事务所まで走りきってみせますよ!」ビシッとピースサインを突き出し、得意気な笑颜を见せる。が、そのあと、一度大きくぶるりと身を震わせて肩をすくめた。よく见れば、腕には若干鸟肌も立っているような…そんなココネに、王泥喜は苦笑した。「まぁ、希月さんらしいけどね…とりあえず、コレ」そう言って、自分の伞を差し出すとココネに握らせた。「そのままだと希月さんも濡れるよ?」「え?でも、それじゃ先辈が…」「俺は大丈夫だよ。あとコレも…」そして次は自身の赤いスーツの上着を脱ぎ、ココネの背にそっと羽织らせると、ニッと笑った。「あんまり薄着じゃ、风邪ひくだろ?俺はそっちの方が心配だよ」その笑颜に、ココネはドキリとした。王泥喜の温もりが残った上着は温かかったが、それ以上に胸が温かくなるのを感じる。(やっぱりこういう优しいところ、好きだな)ココネは改めて思う。少し前から気付いていた、自分の、王泥喜に対する気持ち。それがこんなにも胸を温かくしているのだ。先辈は优しい。でも、みんなに优しいのだ。この优しさだって『后辈』に対する优しさで。この优しさを特别なものにできたなら…と思うものの、无理な话だろう。自分は『ただの后辈』でしかないのだから。ココネがそんなことを考えていた时。ココネの胸元でモニ太が绿に辉き、喜びの気持ちを伝えてくるのを见た王泥喜は、なるべく平静を装っているつもりではいたが、自然と颜が缓んでいた。けれど时々现れる悲しげな感情の色に、今度は戸惑う。(まただ…)王泥喜もまた、ココネを大切に想う気持ちに気がついてしまってからというもの、日に日に想いが强くなっていた。このところ、気が付くと目で追ってしまっている自分がいる。明るい笑颜、元気な声に、考えるごとの时のクセ。そして弱い人を守りたいと思う揺るぎない意思。そんな彼女のどんな表情をみていても、惹かれてしまうのだ。さっきだって、たくさんの行き交う人の向こう、空を见上げてため息をついていたココネがすぐ目に留まった。思い切ってこの気持ちを彼女に伝えてしまいたくなる时もある。でも、自分と接する时に时々见せる『悲しい』という感情はなんなのだろうか。考えてもわからなくて、『ただの先辈』としてでも一绪にいられる时间を选んでしまっていた。お互いの気持ちにも気づかず、密かにそんな想いを巡らせていた2人。その仅かな无言の间のあとだった。ココネが先に声を上げた。「私、结构丈夫にできてるから大丈夫です!だからやっぱり伞も上着もお返ししますね」「いや、ホント俺は大丈夫だって。だから希月さん、使ってよ」「でも申し訳ないですし…」やがてだんだんと不毛な譲り合いになっていったその时、スピードを出した大型トラックが2人の脇を通过した。ブロロロロローーーーーザッパッーーーン!!トラックは大きな水溜まりの水を派手に跳ね上げ、あっという间に走り去っていった。「…」「…」风圧で飞んだ伞がはらりと落ちる。后に残された2人は、折角の譲り合いも虚しく、结局头から足元までびしょ濡れになってしまった。「あー!カバン!!」ココネは慌ててカバンの様子を确认したが、ココネの上着と车道とは反対侧に抱えていたのが幸いし、无事だったようだ。「よかったー」『ヨカッタヨー』安堵して短い息を吐いたココネは、隣で自分と同じくずぶ濡れの王泥喜と目が合った。と同时に2人は吹き出し、盛大に笑いだした。「先辈、角が元気ないですよ」「角じゃないから!って、希月さんも前髪がふにゃふにゃだよ」「えぇっ!?」寒くて震える程だったけど、こうして一绪に笑い合っているのはとても心地よかった。ココネはもっとそれを感じたくて、そっと胸元を押さえる。やがてひとしきり笑い终えて、ココネは脇に落ちていた王泥喜の伞を拾いあげると、畳んで持ち主に渡しながら言った。「先辈、事务所まで走りますよ!」「こうなったら、それしかないね」苦笑し颔いた王泥喜に、ココネも颔き返し2人は雨の中を同时に走りだした。今はあれこれ考えても、まだ先は见えないけれど。こうして一绪に前へと走りだしていればいつか答えにたどり着きそうで…そんな期待を胸にしまって、2人は帰路を急いだ。やがて一绪に前へ进みはじめる时が、すぐにやってくるとは思いもせずに。