カイの言叶に负けた俺は、がっくり肩を落とした。
(あっさり1人负けするとか……どれだけついてないんだ、俺は……)
「じゃあ、胜ったみんなでもう1回じゃんけんだね。次负けた人がサンタだよ!」
クラエスの言叶に、みんなの视线がゲルダに集まった。
(そうだ。俺だってほんとはあいつのサンタ姿が……见たい)
「最初はグー。じゃんけん……」
「「「「「ポン!」」」」」
今度はパーがいる中、1人だけグーを出してるやつがいた。
さっきまで冷たい目で俺たちを见てたそいつの颜が……みるみる元に戻ってく。
「えっ……俺?」
カイがきょとんと自分を指差す中、ゲルダを除くみんなの脱力感は半端なかった。
(おまえ……、何负けてんだよ……!)
そう思ったのは俺だけじゃないはずだ。
「サンタはカイで决まりだね」
打ちひしがれてるカイに、ゲルダがにこっとサンタの服を差し出した。
「う、うん……」
「あ、そうだ。イヴァン、カイにスカーフを巻いてあげてね」
「な、なぜ私がそんなことをしなければいけないんですか。冗谈じゃありませんよ」
「でも、さっきスカーフを巻くって言ってくれたよね? この中でスカーフを1番うまく巻けるのはイヴァンだろうし」
「それは相手があなただったらの话です。谁がカイのスカーフなんて……」
「そっか……。いつも型崩れしないように绮丽に巻いてあるから、イヴァンに任せたかったけど……」
「いつも、ということは……ゲルダ、あなたは数少ない出会いの中で、そんなにも私のことを见てくれていたのですね……!」
「うん。その胸元のスカーフ、绝対に视界に入ってくるもの」
「いいでしょう。あなたがそこまで言うなら、乗り気ではないですが……カイに巻いてあげます」
「ほんと? ありがとう!」
「えっ、あの……だったら俺、自分で巻く……」
「カイ、良かったね。イヴァンが巻いてくれるって!」
「……うん。そう、だね……」
「「「カイ、どんまい」」」
俺とクラエス、オルヴァがかけた同情の言叶が……カイの耳に入っていたかは定かじゃない。
――それから数分后。
トナカイ用の服と、サンタ(やけにスカーフで胸元がふんわりしてる)の服を着た俺とカイはみんなの前に姿を现した。
「うん……。2人ともよく似合っているよ」
「そーだね。それに一気にクリスマス!って感じになってきたと思うな!」
そう言うオルヴァとクラエスは、サンタの帽子をかぶっていた。
「おまえらな……人事だと思って……」
文句を言おうと口を开きかけて、ゲルダもサンタの帽子をかぶってることに気づいた。
「お、おまえ、それ……」
「あ、ちょうどイヴァンのぶんもあったから、みんなでかぶろうってことになったんだよ」
「私は远虑したんですがね……。彼女が见たがったものですから」
「だってこの方がみんなでおそろいって感じがするでしょ?」
(こいつにこんな笑颜を见せられたんじゃ、みんなも従うしかねえよな……)
着替えてこの姿を人前にさらすことにためらいはあったけど、ゲルダが楽しそうにしてるから……まあ、よしとする。
「それじゃ、クリスマスパーティーを始めよう!」
「ケケケ……オマエ达、楽しそうだネ。ボクも仲间に入れてヨ」
「なっ……! てめえは……悪魔!」
思わず腰元の剣を……ってしまった。着替えたときに剣は置いてきちまったんだ。
「そうだ。イイコト思いついちゃった♪ ボクがとっても素敌な魔法をオマエ达にプレゼントしてやるヨ」
「ああ? てめえのイイコトなんてどうせくだらねえことに决まってる。どっか行けよ!」
「ザーンネン。ボクがするって决めたコトだから、オマエ达に拒否権はナイヨ」
「な、何かするつもりなら、オレが……!」
フライパンを构えて、クラエスが悪魔と対峙した。
「マヌケな格好でそんなことしても、ぜーんぜん怖くないヨ」
「マ、マヌケって言うなぁ!」
クラエスが怒ってフライパンを振り上げた、そのとき――ピカッとまばゆい光が辺りを包んだ。
「な、なんだこれ……! 何も见えねえ!」
「うわっ!? か、体が……!」
「クラエス? おいっ、大丈夫か?」
「きゃ……!」
「ゲルダ!?」
「ククク。ボクからのクリスマスプレゼント……ありがたく受け取りなヨ」
光が徐々に弱まっていくにつれて、视界もクリアになってくる。
(ゲルダ……ゲルダは!?)
焦って声の闻こえたほうを见れば……。
「アージェ……」
そこには……ゲルダに似た人形がちょこんと座っていた。
「…………おかしいな。あいつの声……こっちからしたと思ったんだが……」
「アージェ、わたしなら目の前にいるよ」
「…………」
どう考えても、今喋ったのは目の前の人形で。确かに头にサンタ帽までかぶってて、あいつに似てるとは思う。思うが……。
「うわー何コレ!? オレたち、人形になっちゃったの!?」
「クラエス……フライパンも小さくなっているよ」
「あっ、ほんとだ! これだったら料理できなくもないかも!」
「あなたはこの非常时になぜそんなにのんきなんですか。ああ……信じられません。私までこんな姿にされるだなんて……」
おそるおそる振り向けば、そこにはゲルダと同じように人形になったみんながいた。
「あれ……カイがいねえ……」
「俺なら、ここにいるよ」
「カイ! 良かった、无事だった……」
カイを见れば……ちゃっかりその手にゲルダを抱き上げてた。
「おいっ! おまえ、なんてうらやま……ゴホンッ、そいつを抱き上げてんだ!」
「え、特に理由は无いよ。强いて言うなら、可爱かったから」
「おいい! 确かに可爱いけども! せめてもっと装え!」
「アージェ、それどころじゃないよ。みんなが……」
「ああ!?」
ゲルダから3人に视线を戻せば――。
「このフライパンがあれば料理できるもん! 见てろよー、卵焼きを作ってやるから!」
「ふん。できるものならやってごらんなさい。ああ、人形ですから水気は厳禁ですよ」
「クラエスのあの様子じゃ心配だな……。仆も一绪に行くよ」
「ちょ、ちょっと待て! 胜手に部屋から出て行こうとしてんじゃねえ!」
今にも飞び出そうとしてたクラエスとオルヴァ、ゲルダに気づいて近づこうとしてたイヴァンを一绪くたにして抱え上げた。
「アージェ、何すんの!」
「うっせー! この状况で料理作ってる场合じゃねえだろ!」
「あれ……。ねえ、カイがだっこしてるのって、ゲルダ……?」
「うん。どうやら俺とアージェを除く4人が人形にされてしまったみたいだね」
「……ゲルダは人形になってもかわいーね! カイ、オレもゲルダと一绪がいい!」
「うん、それはともかく。戻る方法を考えないと」
「スルーされた!!」
「ゲルダ、今行きます。待っててください」
「こ、こら! 俺の手から抜け出そうとすんな!」
「ねえ、ゲルダ。この靴下见て。今日枕もとに饰ろうとしてた靴下なんだ」
「あ、わたしも帰ったら饰らないと。サンタさん、今年のクリスマスは何をプレゼントしてくれるのかな……?」
「…………」
……4人とも、危机感が无さすぎる。
俺とカイは、そろって颜を见合わせた。
「「大変なクリスマスになったな(なっちゃったね……)」」
「……ジェ。ねえ。……アージェってば!」
「!?」
揺り动かされてるのに気づいて目を开けると……ゲルダが頬を膨らませていた。
「こんなところで居眠りして! アージェも准备、手伝ってよ」
「え……何言ってんだ。つか、おまえ……いつの间に元に戻ったんだ?」
「……? アージェったら寝ぼけてるの? パーティーはまだ始まってないよ」
「は!? いや、そんなはずねえって。だって料理も……」
テーブルに目を向け、俺は自分の目を疑った。
「あれ……? ここに骨付きハーブチキンと、クラムチャウダーに……ブッシュドノエルがあったはずなのに……」
「料理なら、クラエスがまだ作ってるよ?」
「…………」
と、いうことは……だ。さっきまで见てたのは梦だったってわけで……。
(俺に都合が良かったのは、そのせいか……)
肩を落とすと、あいつが心配そうに颜を覗き込んできた。
「アージェ、大丈夫? なんだか疲れてるみたいだけど……」
「ち、近いって! そんな気安く颜を近づけんじゃねえ、バカ女!」
「バ、バカじゃないもん! アージェは何かあるとすぐバカバカ言うんだから……!」
(ああ、この感じ……。そうだ、これが现実、だよな……)
ほっとしたような、残念なような気持ちになったところで……扉をノックする音がした。
「あ、カイとオルヴァが买出しから戻ってきたのかも。私、出てくるね」
玄関に歩いていくあいつを见送りかけて……ふと、似たような光景が头をよぎった。
(なんか、これ……梦と似てんな。ま、现実にそんなこと起こるはずねえだろうし)
あいつが扉を开くと――、頬を冷たい风がなでた。
(いやいや、まさか……。冗谈じゃ……)
ちらりと视线を向けたその先に真っ先に飞び込んできたのは……。
特徴的な形の……あの、スカーフを身につけた男の影だった――。
END