そして、と|玉座《ぎょくざ》の王は言う。「みんな、立ちなさい」 ざわ、と诸官は困惑して颜を见合わせる。おそるおそるというように、立ち上がり、身の置き场に困ったように、周囲を见渡した。 玉座の王はそれを见渡して|颔《うなず》く。侧に控えた宰辅を振り返った。「これは|景麒《けいき》にも闻いてもらう。――私は人に礼拝されることが好きではない」「――|主上《しゅじょう》……!」 宰辅の|咎《とが》める声に、王は|仅《わず》かに苦笑する。「礼と言えば闻こえはいいが、人の间に序列あることが好きではない。人に|対峙《たいじ》したとき、相手の颜が见えないことが|嫌《いや》だ。国の礼节、见た目は分かるが、人から|叩头《こうとう》されることも、叩头する人を见るのも不快だ」「主上、お待ちください」 留めた宰辅を无视して、王は诸官に下す。「これ以后、礼典、祭典、および诸々の定めある仪式、他国からの|宾客《ひんきゃく》に対する场合を|除《のぞ》き、伏礼を廃し、|跪礼《きれい》、立礼のみとする」「主上――!」 宰辅の制止に、王の返答はそっけない。「もう决めた」「|侮《あなど》られたと、怒る者がおりましょう」「それがどうした」「――主上!」「他者に头を下げさせて、それで|己《おのれ》の地位を确认しなければ安心できない者のことなど、私は知らない」 宰辅は绝句したし、诸官も|呆《あき》れて口を开けた。「そんな者の|矜持《きょうじ》など知ったことではない。――それよりも、人に头を下げるたび、壊れていくもののほうが问题だと、私は思う」「ですが」「人はね、景麒」 王は宰辅に言う。「真実、相手に感谢し、心から尊敬の念を感じたときには、自然に头が下がるものだ。礼とは心の中にあるものを表すためのもので、形によって心を量るためのものではないだろう。礼の名のもとに他者に礼拝を押しつけることは、他者の头の上に足を载せて、地になすりつける行为のように感じる」「しかし、それでは示しが」「无礼を|奨励《しょうれい》しょうというわけではない。他者に対しては礼をもって接する。そんなものは当たり前のことだし、するもしないも本人の品性の问题で、それ以上のことではないだろうと言っているんだ」「それは、そうですが……」「私は、庆の民の谁もに、王になってもらいたい」 言い放つ声は明确だった。「地位でもって礼を强要し、他者を踏みにじることに惯れた者の末路は升紘の例を见るまでもなく明らかだろう。そしてまた、踏みにじられることを受け入れた人々が辿る道も明らかなように思われる。人は谁の|奴隷《どれい》でもない。そんなことのために生まれるのじゃない。他者に|虐《しいた》げられても屈することない心、|灾厄《さいやく》に袭われても|挫《くじ》けることのない心、不正があれば|纠《ただ》すことを恐れず、|豺虎《けだもの》に|媚《こ》びず、――私は庆の民にそんな|不羁《ふき》の民になってほしい。|己《おのれ》という领土を治め唯一无二の君主に。そのためにまず、他者の前で|毅然《きぜん》と|首《こうべ》を上げることから始めてほしい」 言って王は诸官を见渡す。「诸官は私に、庆をどこへ导くのだ、と|讯《き》いた。これで答えになるだろうか」 诸官の返答はない。视线だけが王に向かう。「その|证《あかし》として、伏礼を廃す。――これをもって|初勅《しょちょく》とする」
---------------------------------------------------------------------------------この段落、今に见ても、何度も见ても、体は揺れ、血潮は涌くほど感动する。
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