俺気にしねえし」
「仆も気にしませんが君は気にした方がいいと思います。アメリカでニンジャの由来を闻かれたとき答えられた方がかっこいいじゃないですか」
「古典ってニンジャ関系あんの!?」
今夜の古典攻めを思い、せめて今日ばかりは学校でヤツに遭遇したくねえなと切望する火神だが、そういうときに限って一时间目から古典なのがツッコミ役のお约束だ。いい机会です、先生の言叶は古典の神の言叶、一言も闻き漏らさないでください、黒子にそう言われた火神は、さっそく头から烟を喷きそうになっている。
いつもと违い、教师の温情でテストの予习に近い授业が展开される中、ふと、
「うわ、なんだアレ、すっげ……」
さして大きくも高くもない声が教室中に响いた。前列窓际の生徒の声だった。
言叶につられるようにして教师や生徒が外を见る。土の校庭では小金井のクラスが体育の授业でサッカーをやっていた。けれどみんなが目を向けるのは「眼下」ではなく、火神がとらに乗ってやってきたときと同様「上空」ともいうべき角度である。
――空になにかが浮いている。
黄色くふさふさしたあれは……动物?
「カード……だよな?」
「……狐?」
空にあるのは常ならぬもの。
道なき道を一直线に、こちらに向かって駆けてくる。
阳の光を受けて辉く、黄金色の毛皮。
地を走るはずの獣が、羽もないのに空を飞んでいる。
「なにあれ……」
「こっちくるぞ……」
尾が、多い。十本くらいあるかもしれない。
それはまるで黄色い炎を背负っているかのようで、ゆらめく体积が加わることが、来访者の姿を余计に大きく、不吉に见せた。
ぽつぽつと教室のあちこちから生徒たちの不安げな声がこぼれはじめる。
「なんか……ええ? だいじょうぶか……?」
「おい火神、一応とらを进化させといた方が」
「アホ」
そんな逆に喧哗売るみたいな态度に出て相手を刺激してどうする。言叶にしない分、火神の表情は雄弁だ。
黒子はいつも通りの无表情でその光景を眺めている。
「やだ……なに?」
「……オイオイオイオイ」
落ち着け。怯えて怖がる生徒たちの动揺を制そうと、古典教师が声を上げる。
「だって……火神のとら以外にあんなカードがいるなんて」
――怖い。
要するに、それが生徒たちの心情をいちばん的确に言い表した言叶だった。
カードというものは、通常は手のひらサイズ、几度か进化を重ねたとしても大型犬や子马ほどの大きさに留まるのが普通だ。
なのに、あの空にいる见惯れぬ獣のしなやかな体躯は、下手をすれば普通车よりも大きい。
それは同时に潜在能力の大きさをも表していて、あれが万が一にも炎や雷を操る个体であったなら、この学校の窓际に座る生徒たちは即座に全灭する。自分のカードという比较対象を持つ生徒たちには、一瞬でそれがわかってしまうのだ。
未だかつて日本でそんな凄惨な事件が起こった例はないが、海外の戦地や后进国、例え先进国でも一部の物騒な地域では、カードを使った袭撃事件が后を绝たない现実がある。
おそらく今、この学校のすべての教室で、困惑と戸惑いを込めた生徒たちの目が、窓の外に向けられているのだろう。
カードという存在が当たり前になった昨今でさえ、あのレベルの个体は非日常としかいいようがない。
――幸いにも、袭撃や交戦が目的ではないらしく、獣はふわり、校庭に舞い降りる。
「……大丈夫……みたい?」
「……焦ったー」
狐の背から降りた影は二つ。なんだか远目にもやけに目立つ人物たちだ。
校庭にいる生徒たちは呆気にとられてボールを追う作业をやめていた。
果敢にも来访者に向かって歩き出した体育教师が、数十秒间身振り手振りを交わした后、二名を案内するように校内に向け歩き出す。どうやら警戒が必要な相手ではないと判断したようだ。
そうなると、来访者の意図などひとつしかないようなものだ。
「……黒子の客かな」
「そうじゃね?」
実际、今までにも外部から黒子の噂を闻きつけてこの学校に人がやってくることはあった。カードのスケールは违うが、今回もそういったことなのかもしれない。
案の定、その数分后に校内放送が入る。
『――黒子くん、黒子テツヤくん。至急応接室に来るように』
やっぱりか。クラスメイトとおそらく教师を含めた全校生徒は、その放送を闻いて安堵の息を吐きだした。
「……黒子、行ってこい。火神。ついて行ってやれ」
「はい」
「ウス」
古典教师の言叶にふたりは颔く。
こういった事态のとき、火神が黒子の护卫役に駆り出されるのはいつものことになっていた。