――――あぁ、しくじったな。
黒子は一人公园のベンチ付近に倒れこみながら、ローファーでしこたま蹴られた腹部と、大きな拳で何度も痛めつけられた頬をさすりながら身体を上向けに転がす。春先だと言うのに冷たい风が身体を包み、先程まで缲り広げていた喧哗で火照った身体を沈めてくれる。
タイマンでなら负ける気がしなかった。2対1でも胜てると确信していた。3対1は互角の胜负が出来る筈だった。
……まさかあそこで4人目が出てくるとか卑怯じゃないですか？
1人目と2人目をうまく沈めた所で3人目の一番体格のよい男に羽交い绞めにされ、どこからか现れた4人目の男にボコボコにされた黒子ははぁ、と大きく溜息をついた。
「大丈夫か？」
痛みが治まるまで暂くの间公园のベンチで星でも眺めるか、とぼんやり空を眺めていると急に视界が赤に染まった。
「大丈夫ですよ、君こそ怪我してないですか？それと、さっきは警官を呼んでくれてありがとうございます」
黒子の视界を占领した赤は、先程公园でカツアゲをされていた少年のものだ。前髪を鼻の辺りまで伸ばし、端整そうな颜の半分を隠してしまっているのが勿体无いなぁ、と黒子は思った。
「当たり前だろ……。助けてくれた人を见舍てるなど仆には出来ない」
カツアゲされている时はどこか弱々しく见えた彼は、どうやらそこまで弱い人间では无いらしい。黒子はそうですか、と短く呟いてパーカーのポケットから取り出したスマホを操作してメールを一通送る。后はこのメールを确认した同居人が迎えに来るのを待つだけだ。
「う　ひゃっ！？」
黒子がスマホをポケットに仕舞うのを见届けた少年が、急に黒子の颜に冷たい缶ジュースを押し当てる。
「吃惊させてすまない……。その、冷やしておかないと明日にはもっと肿れると思ったから」
そう言うと少年は、スクールバックの中から镇痛剤や绊创膏、湿布、消毒液、包帯、ガーゼ、テープ等をドラッグストアの袋ごと取出し「せめて手当てだけでもさせてくれないか？」と申し出た。
「テッちゃーん！！」
少年の言叶に被るように元気良く黒子を呼ぶ声がする。
「あ、高尾くんのお迎えが来ちゃいましたね」
「バカ！急に『动けないので迎えに来てください』って地図付けられたメール来て俺心臓止まるかと思ったんですけど！」
高尾と言う少年は、赤髪の少年の事など眼中に无いように黒子だけを视界に捕らえて、思ったよりも軽症の黒子に安堵しつつ无理をした事を恳々と怒っている。
「心配かけてすみません、でもほら、人助けにもなりましたし、ボコボコにはされましたけど、负けてはいないので记录更新中ですよ？」
「记录更新なんてどーでもいいわっ！高校上がったら喧哗しないって言ったの何処の谁だよ！」
「……えーっと、仆、ですね？」
「わかってんなら良いよ。さっさと家帰ろーぜ」
その言叶を合図に、高尾は黒子をさっさと立たせ、肩を贷してその场を后にしようと动き出した。
「待て！」
二人の会话を黙って闻いていた少年が、二人を呼び止めた。
「その、せめてこれを持っていってくれないか？こんな事が助けて贳った礼になるとも思えないが……その、さっきはありがとう」
少年は先程买い込んだ大量の救急セットが入った袋をそのまま黒子に差し出す。
「……顶いていいんですか？」
「ああ。こんな程度では到底礼にもならないが、受け取って欲しい」
「别に、お礼を言われたくて君を助けた訳じゃありませんよ？単にカツアゲとかする人が嫌いなんです」
「それでもっ！嬉しかったら……」
「ありがとうございます。それでは、远虑なく顶いちゃいますね」
差し出されたままの袋を黒子は丁宁に受け取り、高尾に何事かをコソコソと呟く。荷物を渡す事が出来た少年は、そのまま踵を反し、その场を离れようとした。
I

「おはようございます」
「ああ、おはよう」
隣の席の黒髪少年はそれだけを言うと静かに着席し、文库本を読んでいる。
……今の声、ちょっとだけ黒子に似てたな。
静かな澄んだ声はあの日、自分のコンプレックスだったオッドアイを褒めてくれた彼とそっくりで、気付けば赤司は黒髪少年に话しかけていた。
「ねぇ、どんな本を読んでいるんだい？」
「夜明け前、です」
「岛崎藤村だね、読书が好きなのか？」
「好き、では无いですね。必要だから読んでるだけで」
「必要って？」
「君には関系のないことです」
いくつか质问しているうちに、ピシャリとそう言い放たれて赤司はしばし绝句する。――しかし、确かに立ち入った话を闻いてしまったかもしれないと、ちょうど担任が教室に入ってくるのを切っ挂けに、赤司は黒髪少年への质问をやめた。
「赤司ー」
「はい」
担任が出欠确认のために生徒一人一人名前を読み上げていく。一番最后の渡辺くんが呼ばれた辺りで、赤司はふと気付いた。例の黒髪少年がまだ名前を呼ばれていない。せっかく登校してきたのに欠席扱いになるのはなんだか可爱そうだと思った赤司は、担任に少年の存在を仄めかし、そこで意外な名前を耳にした。
「あー、黒子ぉー来てたのか？」
「はい。お久しぶりです」
「お前10日振りに出席だからなー。今日体育の补习受けて帰れよー」
「えっ……」
「なんだ？何か用事でもあったか？」
「い、いえ、大丈夫です」
「それじゃあ、荒木先生に言っとくからな」
そういい残して担任の相田先生は教室から去って行った。
「黒子って……、黒子、テツヤ？」
相田先生が教室から居なくなったのを见届けて、赤司は黒子を引き摺るように第二図书室まで连れ出した。ここなら移动教室で使われることも无いし、第一図书馆のように司书が常驻している訳でもない。サボるにはうってつけの场所だ。
「はい、仆が黒子です」
こんな所まで引っ张ってこられたと言うのに、黒子の颜には一切焦りや不安や不満といった感情は読み取れない。赤司は黒子の挂けている眼镜をそっと外すと、あらわれたのは、地毛より少し青いみの强い大きく丸い瞳。
あの日、赤司を助けた黒子テツヤの持つものと相违なかった。
「どうして、髪と目を隠しているのか闻いてもいいかな？」
眼镜を外した时に気付いた、黒子の黒髪の正体を本人の了解も得ずに取り払い、出てきた水色の髪を整えていると