八月になったばかりの夜、事前に连络もなく干也がやってきた。
「こんばんは。相変わらず|気怠《けだる》そうだね、式」
突然の来访者は玄関口に立って、笑颜でつまらない挨拶をする。
「実はね、ここに来る前に事故に出くわしたんだ。ビルの屋上からさ。女の子が飞び降り自杀。最近多いって闻いてたけど実物に遭遇するとは思わなかったな。―――はいこれ、冷蔵库」
玄関でブーツの纽をほどきながら、手に持ったコンビニのビニール袋を投げてよこす。中にはハーゲンダッツのストロベリーが二つ。溶ける前に冷蔵库に封入しろ、という事らしい。
私が缓慢な动作でビニール袋を确かめている隙に、干也は靴を脱ぎ终えて上がり|框《がまち》を踏んでいた。
私の家はマンションの一室だ。
玄関から一メートルもない廊下をぬければ、すぐに寝室と居间を兼用した部屋に辿り着く。さっさと部屋へと步いていく干也の背中を睨みながら、私も自室へ移动した。
「式。君、今日も学校をさぼっただろう。成绩なんてどうでもいいけど、出席日数だけは确保しとかないと进级できないぞ。一绪に大学に行くって约束。忘れたのか?」
「学校の事でオレに指図する権利、おまえにあるか? そもそもそんな约束は覚えてないし、おまえは大学止めちまったじゃないか」
「……。権利なんて言われると、そんな物はなんにだってないんだけどね」
难しい口振りをして。干也は腰を下ろした。こいつは自分が不利になると地が出る倾向にあるらしい。――最近、思い出した事だ。
干也は部屋の真ん中に座った。私は干也の背后にあるベッドに腰を下ろすと、そのまま体を横にした。
干也は私に背中を向けたままだ。
その、男にしては小柄な背中を、私はボウと観察する。|黒桐干也《こくとうみきや》という名前をしたこの青年は、私とは中学时代からの友人であるらしい。
数々の流行が次々と现れては疾走し、あげく暴走したまま消灭するという现代の若者の中で、退屈なまでに学生という形を维持し続けた贵重品だ。
髪も染めないし、伸ばさない。肌も焼かなければ饰り物もしない。ケータイも持たなければ女游びもしない。背は百七十に届くか届かないか程度。温和な颜立ちは可爱い系で、黒縁の眼镜がその雰囲気を一层强めていた。
今は高校を卒业して平凡な服装をしているが、着饰って街を步けば通行人の何人かは目に留めるぐらい、実は美男子ではないだろうか――――
「式、闻いてる? 君のお母さんにも会ったよ。一度は両仪の屋敷に颜ぐらいださないとダメじゃないか。退院してからふた月、连络も入れてないんだって?」
「ああ。とりわけ用が无かったから」
「あのね。用が无くても団栾するものなんだよ。家族って。二年间も话してなかったんだから、ちゃんと会って话をしないと」
「……知らないよ。実感が涌かないんだからしょうがないだろ。会ったってよけいに距离が开くだけだ。おまえとだって违和感が付きまとうっていうのに、あんな他人と会话が続くもんか」
「もう、そんなんじゃいつまでたっても解决しないだろ。式のほうから心を开かなくちゃ一生このままなんだぞ。実の亲子が近くに住んでいるのに颜も合わせないなんて、そんなの駄目だ」