司狼は廊下に倒れたまま、苦しそうに息をついている。
その时に握った手は、惊いてしまうくらい热かった。
「お愿い、谁か来て! 司狼が――!」
私は居ても立ってもいられなくなり、大声で助けを呼んだ。「医师の弁では、风邪と疲労が重なって倒れたとのことです。薬は饮ませましたから、明日の朝には热も下がるかと」
「……うん」
黎明から医师の往诊の结果を闻かされ、私は生返事を返す。
私の视线の先には、ベッドに横たわって苦しそうに呼吸を缲り返す司狼の姿がある。
「双叶、部屋に戻った方がいいのでは? 风邪がうつってしまうかも知れませんよ」
黎明が気遣わしげに言ってくれるけど、私は静かに首を横に振る。
「……ううん、いいの」
ただの我侭だって、自分でも分かってるけど……それでも私は、司狼の傍から离れたくなかった。
「わかりました。それでは、仆はこれで」
いつもの淡々とした口调で言い残した后、黎明は静かに退室する。……彼なりに、気を遣ってくれてるんだと思う。
私は颜を俯けながら、司狼へと视线を戻す。
倒れてしまうくらい具合が悪かったのに――彼はどうして、何も言ってくれなかったんだろう。
周りに心配かけたくないから?
他人に弱味を见せたくないから?
司狼がそういう性格だってことは分かってるけど……。
彼はこれから先もずっと、心配すらさせてくれないってことなのかな。
どんなに彼が无理をしてるように见えても、不安で胸が押し溃されそうになっても……司狼を信じる以外、何もできないってことなの?
そんなネガティブな问い挂けばかりが、胸の中に満ちてくる。
それから、どれくらい経っただろう。
窓の外がすっかり暗くなった顷、闭じたままの睑が仅かにわなないた。
そして……。
「ん、ん……?」
细く开いた瞳が、私の姿を捉えて大きく见开く。
「司狼――!」
彼が目を覚ましてくれたことに、私は胸を抚で下ろす。
「双叶ちゃん……どうして俺の部屋に?」
彼は心外と言わんばかりの口调で、そう寻ねてきた。
「どうしてって――司狼が热を出して倒れてたから、黎明に頼んで部屋に连れて来てもらって……。体调の方は、もう大丈夫なの?」
「ん? まあ……头はまだ、フラフラするけどな。しかし、みっともねえな。よりによって、ぶっ倒れてる所を见られちまうなんて」
彼は、悪戯っぽいごまかし笑いと共に言うけれど、私は笑い返すことなんてできなかった。
「……どうして具合が悪いってこと、素直に言ってくれなかったの?」
震える声で、そう寻ねてしまう。
その问いに、司狼は一瞬、答えに诘まった様子を见せる。
だけどすぐに、まるで子供をなだめるような口调で――。
「女に、弱いところなんて见せられるはずねえだろ。ましてや、双叶ちゃんに――」
そう言い挂けて、慌てて口をつぐむ。
それから、罚が悪そうなそぶりで视线をそむけた后、続けた。
「……俺がそういう奴だってことは、双叶ちゃんもよく知ってるはずじゃねえか」
そんな言叶を、口にする。
确かに、司狼がそういう人だってことは分かってる。
だけど……。
「……そういう风に、本音を隠されるから余计心配になることだってあるんだよ」
気が付けば、私はそう漏らしていた。
司狼の瞳に、怪讶そうな色が宿る。私がこう言い出すことなんて、予想してなかったみたいだった。
だけど、もう止まらない。
私は司狼のベッドに手を付いて、駄々っ子みたいにまくし立ててしまう。
「司狼は、人に頼ったり弱いところを见せたりする人じゃないって、分かってるけど――それでも、心配ぐらいさせてよ。平気なふりをして、辛さや痛みを一人で抱え込んだりしないで! そんなことされたら私、余计に――」
そう叫びそうになった瞬间だった。

司狼が不意に私の手首をつかみ、私の身体を近くへと引き寄せる。
揺れた前髪が頬に触れるほどの近さに、瞬きすら踌躇してしまう。
仅かに热を帯びた唇が、私の口元でうごめいた。
そして……。
「……俺のせいで、双叶ちゃんを不安にさせちまったってことか?」
真剣な眼差しで、そう问われてしまう。
突然の行动には戸惑ったけど、间近に感じられる热い视线や真剣な问いをはぐらかすなんて、とてもできそうにもなくて――。
「そうだよ。私……すごく不安だったんだから。もしかしたら今回だけじゃなくて……司狼はいつも、辛さとか苦しさとか……全部一人で抱え込んで、平気なふりをしてたんじゃないかって、思って……」
そう答える声が次第に小さくなっていき、やがては途切れてしまう。
司狼は一瞬目を伏せた后、不意に颜を上げた。
そして……。

「んっ――!」
不意に、私の唇が热いもので塞がれた。
诘められた吐息が、重なり合った唇から感じ取れる。
司狼にキスされてるんだってことを自覚するまでに、ゆうに数秒はかかったような気がする。
头の芯が、まるで痹れたようにボーッとして……私は、彼を突き放すことも、身を捩ることもできずにいた。
程なくして、彼は静かに唇を离し……耳元でこう嗫いてくれる。

「……心配挂けて悪かったな、双叶。今度はもう、こんなことにはならないようにするから」
柔らかい声と申し訳なさそうな言叶とが、私の胸の中のわだかまりを溶かしていく。
まだ唇にうっすらと残るキスの感触を噛み缔めながら、私は司狼の大きな胸に颜を埋め――こう呟いたのだった。
「うん。约束……だよ」
(终)